短編

□マルコ娘
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「――ッレン!お前…」


その結論まで思い立ったセイエンが思わず出した大声を遮るようにレンが話し出した。

セイエンと比べると細く静かすぎる声だったが、セイエンは途端に黙り込む。


「とうさん、が、ね」


父さん。アイツはマルコのことをよく話していたしおれも話した。あんな特徴的な外見、見かけりゃすぐわかるだろう。


「わたしをね、ころすって。おまえが、ころしたって、ぱぱが、レンに、言ってて、わたし、ねぇ、セイさん、まま、わたしが、ごめんなさい、まま、ねぇかあさん、かあさん」


――愕然とした。

マルコは、気付かなかったのか?髪は直毛で、アイツに似た。けど瞳の色、顔のパーツ、所々にわかりやすくお前に似たところが散りばめられてるのに。こんなにもコイツはお前とアイツの面影を引き継いでるんだぞ?お前の実の娘なのに、なんで気付かなかったんだよクソ。


レンの口調が安定しねぇ。ガキん頃と今と混ざってやがる。アイツが死んだ時みてェに。どうしろっつーんだよクソ。なぁレン頼むからそっちにいかないでくれよ。

「レン、違ェよ、違ェ!お前ェのせいじゃねぇ!アイツは、お前の母さんは、いつだってお前を愛してたしおれだってお前を愛してる。お前がアイツを殺した訳ねぇだろ?おれとアイツを信じろ!島の奴らなんかより、今日初めて会った奴なんかより、おれとお前の母さんを信じやがれ!」

そうセイエンが言えば、まだ虚ろなままの瞳だがレンが薄く微笑んだ。


「セイエンさん、口調が、むかしみたい。よく、かあさんに、怒られてたね。レンが覚えたらどうするの!って。ふふ、なつかしい、ね。かあさんが、いきてたころ。わたしがころしたかあさんが、いきてたころ」


いつもに近い声音に一瞬喜びかけたセイエンが、唇を噛む。
どうしたら、戻ってくんだよ、レン。


「また、怒られちまうな、こんな荒い口調してたらよ。だからお前もいつもみてぇな弱っちい癖に強がりなクソガキに戻れよ。このままだとおれが怒られんだろ?」


それは冗談のような声音で、けれど悲痛な、懇願の響きを持ってレンの耳へ届く。

あぁ、この人は、セイさんは、セイエンさんは、いつだって私の味方でいてくれる人だ。あの日のように、わたしを認識させてくれる、彼の声。

かあさんをころした化け物(わたし)にやさしくしてくれるただひとりのひと。(貴方がそんなに優しくする価値は私にはありません)

「セイエンさん、ありがとう」


バッと身体を離したセイエンがレンを見れば、随分と虚ろが消えた瞳をこちらに向けていて、いつも通りとは行かないまでもどうにか壊れないでいてくれたのだとほっと息を吐いた。


「セイエンさんがままに怒られたら、私も一緒に怒られてあげる」

母さんではなくママと呼ぶレンに、セイエンは強く拳を握り締めた。

ガキの頃と、今と、直らねぇのか。
――もうコイツは、壊れちまった。おれじゃ、なおせねぇほどに。


レンの浮かべた笑顔は、あまりにも儚くて、今にも消えちまいそうなもんだった。




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