短編
□マルコ娘
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島に海賊が来た、という話を聞いて、いつも通り私は迷わず外に出た。
裏道を歩いていたら、向こうの方に見えた姿。
一目見て、わかった。
母さんが言っていた、特徴的な髪型。眠たげな目。何よりその人の雰囲気が、自身の直感が、目の前の男が、焦がれ焦がれた実の父親だと告げていた。
父さん、と、思わず駆け寄りたくなって、自分の事を知っているかも分からないのに、思い切り抱きつきたい。抱きついて、子供っぽいけれど、頭を撫でてほしい。私を産んでくれて、今まで一緒に遊んだり料理をしたりした母さんの事を話して、父さんの話も聞いて、でもまずは、謝りたい。父さんは、許してくれるかな。
不安になって、思い出すのは、母さんの言葉。
死ぬ間際にも、その前も、母さんはいつも、いつだって言ってくれていたから、でも、大丈夫かな。母さん、父さんは、私を愛してくれるかな。
寂しかった、苦しかった、愛おしい、いろんな気持ちが混ざる。
父さん、ってもう湧き上がる気持ちが抑えきれなくて声をかけようとしたら、父さんがこっちに来てくれた。
父さんが早足でこっちに向かってくるから、もしかして気付いてもらえたのかな、なんてちょっと喜んで、――はっとした。
近づいてくる父さんの、纏う空気は、娘に会う、なんてものじゃなかった。
父さんの、手が伸びる。伸びてくる。
私の首を、父さんの手が包んだ。
「や、め…ッ!!」
息が、出来ない。くるしい、苦しいよ、父さん。――父さん。
少しずつ霞んでくる視界。どうにか合わせた焦点に、はっきりと映った父さんの瞳は、島の人達と同じ色をしていた。
憎い、と。
消えろ、と。
お前が死ねばよかったんだ、と。
お前なぞ、生まれてこなければよかったんだ、と、言う、島の人達と、同じ色を、していた。
「なんで、アイツを殺した…!!」
違う、違うの、父さん、私は、私だって、私が。
「お前が、アイツを殺したんだろい!?」
私、私が、違う、父さん、父さん、違う、違うの、父さん。
「殺す…ッ!!」
――とう、さん。
わたし、ごめんね、まま、ごめんなさい。
わたしがうまれたせいで、ままが、まま、ごめんなさい、ごめんなさい。
《 なんであの子が死んで、お前みたいな化け物が生きてるのよ…っ!!》
《 お前のせいであの子が死んだのよ!!》
《 アイツを返せ…!!》
《 なんでお前なんかが生きてるんだ!この化け物!!》
《 お前が死ねばよかったんだよ!!お前が!!!!》
《 「殺す…ッ!!」》
――ごめんなさい
―――ぱぱ、まま、ごめんなさい
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帰り道「main」
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