短編
□イゾウ成り代わり
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ほとんど朧げになってる前世の知識の中で、想い出を切り捨ててただ白ひげ海賊団に関わるところだけを覚えて、サッチが悪魔の実を手に入れた時に仲間を殺す覚悟を決めた。
古株で長く一緒に船に乗っていたティーチにほんの少しの情ぐらいはあった。前世の知識通りにならないんじゃないかって希望も持っていた。
けど、ティーチの瞳にちらりと覗いた隠しきれない野心に、あぁやっぱりダメなのか、なんて覚悟を決めて。
その日の晩。新月の、真っ暗な晩だった。
一番成功率が高いと考えたサッチとティーチの密会の場に突入。
抜かれていたティーチの剣を、取り出した短剣で止める。
「サッチ、逃げろ!」
叫んでも、サッチは親友だと信じていた家族が自分に斬りかかり殺そうとした衝撃からか、現状を把握できずに呆然とするだけ。
それでも隊長か!?
叫ぶ暇さえなく、必死にティーチの剣を止め続ける。
――隙がない。
銃を抜く暇さえない剣さばきに思わず舌打ちをする。
苛立ちで、一瞬剣先がぶれた。
――まずい。
そう思った瞬間には、もう遅かった。
なんとも言えない音が後ろから、――サッチの体から、発せられる。
低く苦悶の声を上げて、どさり、とサッチが倒れた。
あぁ、どうしよう、どうすればいい。
このままだと、"原作"が変わらない。
エースも、オヤジも、他の家族たちも、死ぬ。
ぎゅっと歯を食いしばってサッチの手に入れた実に手を伸ばす。
今度はティーチが、サッチを殺した事に油断していた。
ヤミヤミの実――シンクに置かれていたそれをイゾウが一口口に含んだ。
――ぶわり。
そんな音が聞こえるような錯覚。独特で不可思議な闇の気配。
一瞬発生した濃い闇に、ティーチが激昴して斬りかかる。
短剣を片手に、懐から銃を取り出し、ティーチの額を打ち抜こうとしたその時―――ドアが壊れるほどに激しく開いて、飛び込んできたマルコを始めとした隊長格の面々に、二人の動きが止まる。
サッチを見て驚いたように目を見開いて、マルコが真っ先に駆け寄る。
その光景を視界の片隅にいれながらももう一度ティーチに向かって引き金を引こうとすると、その的が隊長達が集まる出入口の方向へ動いた。
「マルコ、イゾウが…イゾウの奴がサッチを――!!アイツ、短剣を隠し持っていやがった…!!」
確かに、イゾウの手の中には血に濡れた短剣。――ただし、その血はティーチのものだ。
コイツらが、お前みたいな下衆の言う事を信じるわけねェだろ?
俺は、そう信じて疑わなかった。
――愚かにも。
しかし現実はどうだ。
「イゾウ、テメェ…!!!」
怒りでギラつくマルコの瞳。
殺気を漲らせた家族。
憎しみが、俺に向けられていた。
大事な家族の、憎しみの瞳。
サッチは、医務室へと。
俺は、隊長数人がかりで縛られ甲板へと引きずられて行った。
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