短編

□イゾウ成り代わり
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「イゾウ…俺はな、お前はもっと怒るべきだと思うぜ?怒っていいと思う。寝こけてた俺に何で寝てたんだよとか、ハルタに何で最初から信じてくれなかったんだよとか、マルコとエースに何でアイツを信じたんだよとかさ!あるだろ!?」

半ば怒鳴るような声で言われたそれに、イゾウがふと考え込んだ。自分の詰めの甘さが原因とは言え、少しは信じて欲しかった。まさかあんなにも信じられてないとは思っていなかった。確かに傷ついた。整理は付けたつもりでも、考えれば自責も恨み言も山ほど出てくるのだ。――だが、怒っているかと言われれば答えは否。しかし、大事な家族達がただ赦されて気に病まないかと言われてもまた答えは否だ。

考え込んでいたイゾウはふとサッチに視線を向けると、見慣れたフランスパンのようなリーゼントをしていない頭をぺしと軽く叩いた。そしてそのままぐしゃぐしゃにかき混ぜて下に引っ張り、床に目が向くように腰を軽く曲げさせる。

「いいかい、サッチ。お前ェが寝てたのは怪我をしてたからだ。お前ェが怪我したのは、俺が油断したからだ」
「はっ?ちがっ!」

違うと顔を上げかけたサッチの頭を再び下に向けて黙らせる。

「いいから黙って聞け。――なァ、サッチ?逃げろっつったのにあの体たらくは何だ?ぼーっと立ってるばっかじゃ敵は倒せねェんだ。分かるだろう?
4番隊隊長、サッチ、その名に恥じねェ戦いをしやがれ。いつでも冷静さを失うな。的確に状況を判断しな。分かったか?」

言い終わると同時にまた頭をかき混ぜ、ようやっとサッチが顔を上げるとイゾウはくつくつと笑った。ぼさぼさにしすぎた、と笑いながらカチューシャを付け直し、サッチに尋ねる。

「お前は?何か言いたいことはねェのかい?」

ぐ、と息を詰まらせ、サッチは顔を歪めた。

「お前は、ほんっとに馬鹿みてェに優しいなぁ!!」

イゾウが怒ったように見せた理由を正しく理解して、サッチは言った。馬鹿だ。コイツは、本当に、馬鹿。

イゾウは、サッチの反応にバレたかと苦笑を零す。それをじっと見つめたサッチは、確かめるように尋ねた。


「なァ、イゾウ。お前は本当に何もないのか?何もしなくていいのか?」

サッチには、復讐なんてこの優しい家族は言わない自信がある。でも恨み言くらいあるはずなんだ。それとも、それすら呑み込んでおれ達にしたようにエースやマルコに謝らなきゃとか思ってるのだろうか。

(コイツのことを気に病みまくってる長男坊と末っ子に謝らせてやりたい気持ちもあるけどなぁ…)

そうは思うが、イゾウは謝罪など求めていないだろうし、今サッチの中での優先順位はイゾウが1番上にいた。
イゾウが複雑だ、無理だと思い2人に会いたがらないならそれでもいいと、サッチは本気で思っていた。
誰にも会いたくないなら、オヤジにさえ隠してやろうと思っていた。目の前にいる彼は本物のイゾウだという確信は固まる一方で、最早警戒という言葉は頭から消え失せていた。自身が殺した家族を疑い、死して尚苦しめたいなどと誰が思うものか。

イゾウはベッドに寝ているハルタを見て髪を軽く撫でた。そしてす、とサッチに視線を戻すと、やたら綺麗なのにやたら雄らしく、ニッと笑って見せた。

「甲板、行こうかねェ?」

そこに行って彼が何をしようとしているのかは分からなかったが、サッチはすぐに返事をして、連れたって部屋を出る。

サッチには、イゾウが何を望んでいるのか分からない。だが、彼が望んでいることなら何だろうと出来る限り叶えてやろうと思っている。


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