短編
□イゾウ成り代わり
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ひとしきり泣いたら大分気分は晴れた。冷静にもなれた。客観的に思い返すことも出来るようになった。
しょうがないことだ。俺だって前世の知識が無かったらアレを疑う事も無かったのだろう。そして、あの戦争が起きて、オヤジが、エースが、家族達が、死んでいた。
――それをどうにか変えようとしたのは誰だ?行動したのは?…俺だ。ならばこの結末を迎えたのは誰のせいだ?…それだって、俺だ。
俺の詰めの甘さがこの結末を導いた。俺が上手くやるべきだった。もっともっともっと、やりようはあったのに。
話しておけば、結末は変わったかもしれない。
成功率なんて用意次第でどうにでも出来ると考えてあの夜の前にしておけば、結末は変わったかもしれない。
苛立たなければ、諦めなければ、もっと頑張れれば、結末は変わったはずなのに。
サッチはアイツらに事実を話すだろう。そしてアイツらは、自分を責める。ティーチはいないから、エースがモビーを出ることはないだろうが、それでもアイツらは傷つく。
サッチは自分のせいだと傷つくだろう。
マルコはもっと冷静だったらと傷つくだろう。
エースはあの真っ直ぐさがいい所なのに、それを悔いちまうんだろう。
ハルタは俺を救えなかったことに傷つくだろうし、あんなに暗かったのに、俺なんかの為に海まで追いかけて来ちまって。なのに俺はそれを拒んで闇を使った。それにだって傷ついているだろう。
ビスタやジョズや他の奴らも、自分を責めて、傷つくだろう。
俺はそれを望んじゃいないってのに、それでもアイツらは傷ついて自分を責めてるだろう。
俺の詰めが、甘すぎたせいで。
「ごめんな」
また、呟いた――
――途端。
視界の端から闇が広がる。ハッとして腕を振れば、その腕も闇に覆われていた。ヤミヤミの能力の闇なら、透けて見えて視界が遮られるはずがないのに、俺を覆って行く闇は紛うことなくヤミヤミの実の能力によるもので――
三日月の夜のほの明るい闇の中、ただ独り存在していた男を、新月の濃い闇が覆い隠して行く。
ぶわり、ぶわりと広がる闇が、空間を侵食し、……それが晴れる。
返ってきた三日月の夜を、隅々まで見渡して――残るものは、何も無い。
――暗転。
(三日月の夜には)
(誰も、何も、残らない)
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帰り道「main」
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