短編
□イゾウ成り代わり
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乾いた中洲に腰を下ろし、石を拾っては投げる。
投げた石は音を立てて水面に当たり、ゆらりゆらりと波紋だけを残して消えて行く。
ふと石を投げる手を止めて凪いだ水面を覗き込むと見えた情けない顔に、思わず顔が歪む。
家族が大切なのは本当で、今でも嫌いになれないのも本当で、けれど全て許せたと思ったのは勘違いだったらしいのは水鏡を見てすぐにわかった。
「…俺は…」
呟いた声が闇に消えて行くのと同時にゆっくりと体を倒す。
気が狂いそうな水と石と闇と僅かな光だけの世界にたった独り。
イゾウは寝転がったままに家族の影を追い求めるように宙に手を伸ばした。
ゆら、と微かに揺れた手は落ちてイゾウの瞼を塞ぐ。
上を向いていた手の平を隠すように握り込めば、不意にこみ上げてくる熱。
「…ッ、ふ、くそ…っ、なんでだよ…っ!」
次々に零れる涙は、伝う前に袖に吸い込まれて行く。
なんで信じてくれなかったんだよ。
なんでアイツを信じたんだよ。
なんで俺にそんな目を向けたんだよ。
なんで何も言ってくれなかったんだよ。
纏まりのない思考が頭をかき乱してぐちゃぐちゃにかき混ぜられてる気分だ。
辛くて苦しくて寂しくて悔しくて悲しくてもう何がなんだかわからない。
それでもアイツらが好きだと思うのは変わらないのだから俺は救いようのない馬鹿野郎だ。
いっそ嫌いになれたら楽だったのに、なんて思っても本当にそう思うのかと考えれば思うはずもなくて、止まる兆しさえないこの涙は何への涙なのかもわからなくて、自分の馬鹿らしさ加減も馬鹿らしくてアイツらに信じてもらえなかった悔しさやら寂しさやら虚しさやらでぐちゃぐちゃの頭ん中がさらにぐちゃぐちゃになって行く感覚が気持ち悪い。
――なァお前ェら、俺は、どうすればいい?どうしたらよかったんだよ――
瞼の裏に見える家族の幻にそう問うても、答えは返ってこなかった。――返ってくるはずもなかった。
(家族の為に自分を犠牲にした)
(慟哭が、闇の中に響く)
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