短編

□イゾウ成り代わり
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「あの夜――一人で、見つけた悪魔の実を食べようか迷ってた」


そんな一言から始まったサッチの話に、口を挟む者はいなかった。


* * * * *

―――月の光さえ射さない暗い夜。


サッチは部屋の中で一人、シンクに置いたランプの灯りで照らされる悪魔の実をじっと見つめていた。


ガチャリ、と音を立てて開いた厨房のドアの方を振り向けば、長年共にいる家族であり友の姿。


「ティーチ?どうしたんだ?こんな時間に」


いつもとどこか違うような気のするティーチの雰囲気を感じつつ首を傾げれば、向けられたナニカが光を反射して輝く。


「サッチィ……」


ニィ、と欲に塗れた笑みを浮かべて剣を抜いているティーチに、サッチは現状が理解出来ずにただ突っ立っているだけだった。


今にも斬りかからんと剣が振りかぶられたかと思うと、飛び込んでくる人影。

サッチの前に立ち塞がった人影にティーチが反射的に剣を振り下ろせば、剣がぶつかり合う鋭い音が響いた。


ティーチの剣を短剣で止めたイゾウが、ギリッと歯を食いしばりながらサッチに向かって逃げろと叫ぶ。

それでも呆然と立ち尽くしているだけのサッチにごうを煮やしてイゾウが振り返ろうとしたが、ティーチが次々攻撃を仕掛けてくるためにそれすらままならない。


止まるサッチの思考とは裏腹に、イゾウとティーチの打ち合いは激しくなるばかり。

チッと舌打ちが聞こえたと思うとぶれたイゾウの剣先をすり抜けてティーチの剣が間近に迫り、熱さのような激痛がサッチの身に走った。

痛みでやっと覚醒した意識と正反対に体は地に伏して。


ドクリ、ドクリとサッチの視界に赤が広がっていく。


どんどん流れていく血のせいか、ぼんやりする視界と思考。
頭に響くティーチの哄笑を最後に――サッチの意識は、途切れたのだった。


* * * * * *


「これが…おれが見た全てだ」


話しながら、頭にはあの夜の光景が鮮明に流れていた。


ニタリと汚く笑うティーチ。

向けられる剣。

庇うように割り込んできた、自分と比べて線の細い体。

剣がぶつかり合う鋭い音も、逃げろと叫ぶイゾウも、あの時はまるで状況が理解出来なかったのに、今頭に流れる記憶は全てが鮮明で。


話している最中に、何度もせり上がってくるものを耐えた。震えそうになる声を抑えた。


サッチが全てを話し終え――。

マルコが、エースが、愕然と凍りつく。強く握りしめられていたナミュールの手から血が滴った。

それ以外の面々も一様に色を失い、ハルタはもはや声もなくぼろぼろと涙を零していて。


「うそ、だろ…?」


誰かが呟いた声は、静かな部屋に、やけに大きく響いた。

* * * * * *

(知らされた真実の大きさ)
(告げられた言葉達が、理解出来なくて)






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