episode
□狂想曲 4
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車のスリップ音が響き渡る
─────もうだめだ
誰もがそう覚悟した瞬間
何かが歩美と車の間に入った
歩美を抱えると、走り来る車のボンネットに片手を付き、車の上を転がる様にして滑ることで衝突を回避
ほんの一瞬の出来事だった
「歩美...生きてる....」
硬く瞑られていた少女の瞳が開けられると、目の前には黒髪の女性の姿があった
自分は抱えられていて、この女性に助けられたのだと初めて気づく
『もう大丈夫よ』
そう言って微笑んだ女性
歩美はその美しさに言葉が出なかった
「吉田さん!大丈夫?!」
向こうから哀たちが駆け寄ってきた
「哀ちゃん!!!」
パッと飛び出すと哀の胸に飛び込んでいく歩美
その目にはうっすらと涙が浮かんでいた
その間に綾美は外れたサングラスを掛け直す
『それより、怪我してない?』
屈んで助けた少女と目を合わせる
「ううん、歩美は大丈夫だよ!お姉さんこそ、どこか痛くない?」
『どこも痛くないわ、ほらっ』
少女の前で腕をグルグル回して見せた
すると安堵したような表情に変わる
「歩美ちゃんよかった....」
蘭がコナンたちと一緒に駆け寄ってきた
彼女の目にも涙が浮かんでいる
「ありがとうございましたっ.....私が付いていながらこの子たちをこんな危険な目に遭わせるなんて....」
『いえ、私は大丈夫ですからっ!!!ほんとに怪我なくてよかったです. ..』
「あの、何かお礼をさせてください!」
蘭がスッと立ち上がり、綾美の手を取り言った
『とんでもないです!!私はただ...』
「歩美からもお願い!!」
『え...?』
さっき助けた子は歩美というらしい
必死にお願いする仕草がなんとも可愛らしい
「お姉さん、僕たち今からポアロに行く予定だったんだ」
眼鏡をかけた男の子が言う
「そうなんです、良かったら一緒に来てください!私がご馳走しますから、そんなのがお礼で申し訳ないですけど...」
蘭の手を握る強さが増した
こうなってしまっては仕方がない
『じゃあ、お言葉に甘えさせてもらいますね』
綾美が微笑むと蘭も釣られて微笑んだ
サングラス越しで申し訳ない
ポアロというものが何かはわからないが、ご馳走すると言っていることからたぶんレストランのようなところだろう
お昼を食べていなかったので丁度よかった
みんなでポアロに向かって歩き出す
コナンと哀だけ笑っていなかった