特設会場

□最後の砦
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ドンヘが俺を束縛しようとするのは、独占欲とか、嫉妬からじゃない。
あいつは寂しいだけなんだ。
寂しさを紛らわせる事ができるなら、本当は俺じゃなくてもいい。

誰でも不安になる事はある。
そんな時、誰かに甘えたくなる気持ちは、とても良く分かる。

***

自分の部屋で携帯をいじっていたら、ドンヘが何のあいさつもなしに入ってきた。
そして、太い眉毛を思いっきり下げて、隣に座るなり、「やだ。ウニョガ。嫌だ」と言った。

これは一種の発作だ。

俺は大げさにため息をついて、「何が」とできるだけ冷たく言った。
そうすると、ドンヘは泣きそうになりながら、「ウニョガ・・・」とキラキラした目で俺を見た。

「ジュンスさんがウニョガをヒョクチェって呼ぶのも、お前のツイッターのアカウント名も、お前がジュンスさんとの約束を昔からずぅっと守ってるのも、全部嫌。いやだぁ」

一気に俺のテンションは下がる。
自然に、詰めていた息が洩れた。

「なぁ、ドンヘ。俺、お前の事、大切に思ってるし、もっと自分に自信を持って欲しいと思ってる。だから、お前が望む事で、俺にできることは何でもするし、努力してるつもりだ。けど・・・」

言葉を切ると、ドンヘは捨てられた子犬のような目で、俺を見る。
うるうるさせながらも、その奥には「またか?」と俺を攻めるような色があった。
突き離される覚悟がある目だ。
その上で、俺に抗議してるんだろ。
お前って、本当にずるい奴だよな。
ドンヘから目をそらして、言葉を続けた。

「けどさ、いつも言ってるだろ。どうしても、出来ない事があるって。いつも、それだけは無理だって」
「ツイッターのアカウント名なんて、いくらでも変えるチャンス、あったろ?」
「そうだけどさ」
「お酒だって。弱くないのに、あまり飲みたがらない。ねぇ、ジュンスさんに操立てでもしてるの?」
「・・・・・・」
「うんって、言いなよ」
「言ったら、お前、怒るじゃん」
「言わなくても分かる」
「なら聞くなよ」
「まだジュンスさんとは連絡を取ってるの?」

胸が冷えた。
どうしてお前は、俺と、お前以外の誰かとの関係を終わらせたがるんだ?
お前は俺の知らない誰かと、仲よくするじゃないか。
俺は、それを嫌だと感じないし、むしろ大いに人望を広げるべきだと思っているから咎めたりはしない。
しかし、毎度もどかしさを感じるのだ。
俺がお前だけだと言ったら、今のお前は満足するかもしれない。
だけど、本当にお前だけになった俺から、お前が離れたら、その後、俺は一体どうすればいい?
自分だけは逃げ道を残し、俺にだけ逃げ道を絶てと言うのは、あまりに横暴じゃないか。


ドンヘは、寂しくなると俺に甘えてきて、いくつかのお願いと言う名の命令を俺に課す。
律義に課題をクリアした俺に、ある日、ついに彼は俺の親友との決別を課してきた。
そんなの、それだけは無理だ。
言っていい事と悪いことの区別もつかないのか。
俺の頑なな態度に、彼はどう思っているのかは知らない。
だけど、こうしてたまに、同じ課題を出そうとする。
その度、俺の神経はすり減った。
出題者は楽でいいよな。
なぁ、ドンヘ、お前はその質問を出す時、どんな気分なんだ?
お前が思い描いている模範解答はなんだ?
もし本当に、お前のために、俺がすべての課題をクリアしたら、お前はどんな気分になるんだ?


お前は一生、俺だけのものになるのかよ?
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