とある惑星の使者
□ 未知と冒険
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住宅街に佇む小さなカフェで、ミンソクはコーヒーを淹れていた。
先ほど最後の客をお見送りしたばかりなので、自分以外に誰もいない。
店内に流れるクラシックに耳をすませながらコーヒーの香りを楽しんでいると、さっそく客の来店を知らせる鈴が鳴った。
ふう、と小さく息を吐いてからドアに目をやると、常連客のイーシンだった。
「あ、こんちには」
「ミンソクさん。こんにちは」
パーカーを着たイーシンは笑顔をたたえてカウンターに腰掛ける。
「イーシンさん、今日は何か、いい事がありました?」
「イーシンって呼んでってば」
「イーシンさんはお客様です」
「もっと、ミンソクさんと親しくしたい。名前だけ。ね?」
常連のイーシンは、ミンソクよりも年下である。
それを知ってから、イーシンはしきりに敬語を使わないで欲しいとせがんできた。
ミンソクはずっと断ってきたが、名前くらいならいいか、とため息をついた。
「はいはい、イーシン。何か良いことでも?」
イーシンは満足そうに頷くと「車を買ったんだ」とはにかんだ。
ミンソクは驚きの声を上げる。
「車?!」
「うん。中古のね、車を」
「何でまた」
「何でって事もないでしょう」
「あぁ、確かに」
イーシンがポケットから車のキーを取り出してテーブルに置いた。
ミンソクはしげしげとキーを眺める。
スリーダイヤのマークが彫られていた。
「三菱?」
「うん」
「珍しいですね」
「まぁね。でも、探せばあるもんだよ」
韓国で三菱車を見かけた事はあまりない。
感心しながら、ミンソクは淹れたてのコーヒーをイーシンの前に置いた。
イーシンは微笑んで会釈した。
「ありがとうございます」
「いいえ。けど、どうしてですか?」
「何が?」
ミンソクは口ごもった。
聞きたいことはいくつも浮かんでいた。
まず何から尋ねればいいだろうか。
「えーっと、色々聞きたいことが」
「どうぞ。何でも聞いて?」
イーシンは嬉しそうに両手を広げた。