とある惑星の使者

□おやすみパンダ
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空港の待合室の座席で、音楽を聴きながら目を閉じていると、話し声が聞こえた。
薄く目を開けると、タオがずんずんこちらに歩いて来る所だった。
どうやら、新しくしたスマホを見せびらかせたいらしく、両手で持ったスマホを俺に向けて振り振りしている。
わざわざ他にもある座席を跨いで、俺の隣にドンと腰掛けた。

「だからね、僕はさ、あえて、この機種にしたわけ」

彼の存在に気付く前から、説明ははじまっていたようで、重要な部分が分からなかった。

「ふうん?」

とりあえず、話を合わせようと思い、相槌を打つ。

俺達はたった数年の付き合いだが、ほぼ毎日一緒で、寝る時間まで共有している。
つまり、互いの些細な反応から感情が読み取れるような関係なのだ。
少しだけ鈍感なタオも、俺が話についていけていなかった事は、顔を見れば一目瞭然だったようだ。
タオが不服そうな顔をして俺の太ももを掴んで揺さぶった。

「ねぇ、ミンソギヒョン、今、僕の話ちゃんと聞いてなかったでしょ」
「ごめん」
「ううー!ひどいひどい!」
「ごめんって、だって、あんな遠くから、俺に話しかけてるなんて思わなかったんだ」
「タオが、一生懸命、お話ししてたのに!」
「タオヤ、機嫌直してよ」

俺よりも背の高いタオの頭をよしよし撫でると、嬉しそうに顔を摺り寄せてくる。
メンバーから猫のようだと言われる俺だが、こうしていると、タオも猫っぽい。
しばらく撫で続ければ、ごろごろ喉が鳴りそうだ。
適度なところで手を止めると、不服そうな目が俺を見る。

「機嫌、直らない?」

両手で軽く頬をつぶすようにして聞くと、タオが口をとがらせて首をふる。

「直ったけど、直らない」

本当に自分の機嫌が直ったのか分からないようで、困惑した表情をしている。
タオらしくて、思わず笑ってしまう。

「どうして笑うの?」
「ふふ、可愛くて、つい」
「え?僕、可愛い?」

可愛いと言われて嬉しい男がいるのか、というのは、俺やルハンの意見。
でも、タオは違う。
(ちなみに、多分、クリスあたりは「可愛いは俺のスタイルじゃない。しかし、俺を可愛いと思う奴は、いるかもしれない」とか言いそうだ。いや、知らないけど。)
可愛いと聞いて、タオは嬉しそうに、にっこり笑う。
その表情もまた、本当に可愛い。

「うん。ついつい、撫でたくなる」
「いいよ?撫でていいよ?」

さっきまでは猫のようだったが、今は犬に見える。
ぶんぶん振り回している尻尾が見えそうだ。
頬に添えた俺の手をタオが掴まえて、気持ち、少しだけ引き寄せられる。
鼻が付くくらいの距離まで詰められて、またにっこり笑う。

「ミンソギヒョン、僕はね、ミンソギヒョンを独り占めしたくなっちゃう時、あるよ」

明るい笑顔で、声をひそめて言う。
小学生くらいの女の子が、大人には秘密だよ、と話すような内緒話。
そんな感じだ。

「ヒョンも、タオヤを独り占めしたくなるとき、あるよ」

オウム返ししてやると、分かりやすいほどに喜ぶタオ。
キャハハハハ!と、まるで女の子のように高い声で笑うのが、たくさんある彼のチャームポイントのひとつだった。
笑うのと同時に体が離れたので、俺は体勢を戻して、話も本筋に戻すことにした。

「タオヤ、その携帯は、何が購入の決め手だったの?」
「ん?これ?」

まだカバーも付けていないスマホをくるりと器用に回し、考える仕草をした。
それからほどなくして、「忘れちゃった!」と口を大きく開けて舌を出す。

「本当はね、ミンソギヒョンと話がしたくて、来ただけなの。だから、僕がさっき話してたのは、全部モウソウなの!適当な事言ってたんだ!」

あっけらかんと言うタオがおかしくて、「なんだよソレ、変なの」と笑ってしまう。
ひとしきり笑い合うと、タオはおもむろに俺の肩に頭をのせて、スヤスヤ眠ってしまった。
その頬を、俺は優しく撫でてから、太ももに投げ出された右手を握って目を閉じた。

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