輝く豆腐たち

□2014クリスマス
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クリスマスイブもクリスマスも、仕事詰めだった。
もちろんその前からずっと仕事続きなのだけれど、やっぱり世界的な特大イベントである聖夜に仕事で忙しくしているのは有難くもあるが、辛くもある。
ただ、仕事自体は楽しいので体力的な辛さを感じつつも充実していた。
束の間の休息が与えられ、各々仮眠を取る中、僕は愛しい恋人の様子が気になっていた。

「ジョンヒョン、少しは休んだ方がいいよ」
「……うん」
「さっきの休憩も寝てなかったろ」
「……うん」

作詞の途中なのが伺えて、相当悩んでいるのか何度も書き直した跡が残っている。

「寝てないから煮詰まってるんじゃないか?少しでいいから仮眠しとけって」

手に持ったままの紙を取り上げようとすると、逆にその手に捕まえられてしまった。
ヒラリと紙が落ちたので、思わずその行方を目で追った。
彼の綴った文字が書かれた紙なのだから、どこかへ消えては困るのだ。
心配をよそに、それは静かに僕の足元へ落ちてきた。
ほうと一息ついたところで、ヒョン、と縋るような声が聞こえた。
その声に慌てて向き直ると、大きくて綺麗な目を伏せて切ない表情をした彼に抱きつかれた。

「聖夜は美人に囲まれるのに限るよね」
「どうした」
「…不安になるんだ」
「何が」
「ヒョンがいつか、やっぱ女の子がいい、って、言う日が来るかもしれない」

苦しそうに眉をひそめて、やっと絞り出した言葉に愕然とした。
時々感傷的になる可愛い恋人は、聖夜の雰囲気にすっかり呑まれ、かなりナーバスになっているようだ。
いつもはそれが彼の創作意欲に少なからず貢献しているので、可哀想だと胸を痛めつつあまり干渉しないようにしてきた。
しかし、今回ばかりは黙って見過ごせない。

「それが不安なの?」
「うん」
「ジョンヒョンが、他の誰かを好きになるかもしれないって、僕も不安だって言ったらどう思う?」

毛頭思っていないけれど。しかし彼は潤む瞳を伏せて、残念そうな表情でゆっくりと頭を振った。

「それとこれとは違うよ。
もともとノンケだったヒョンが、やっぱり女の子がいいって、なるのが、怖いんだ。
不安だって、思ってるんだから。全然違うって」
「そうかな。例えばお前がさ。
違った、オニュじゃなかった。他の子にしようってなるのと、同じじゃない?」

不服そうに俯く頭を愛しく思いながら、優しく撫でる。
ぶら下がるように引っ付いていた体を抱えなおして、僕は思ったままを口にする。

「だって、俺が男だから好きになったの?俺が好きだから、好きになったんじゃないの?
俺は、お前が好きだから、好きになったんだよ?」

俯く彼を伺うように見ると、大きな瞳をさらに大きくさせて、寝不足なくせにキラキラ輝く瞳と鉢合わせた。
そして僕は、その瞳に何度目か知れないトキメキを感じた。

「ヒョン…ヒョンの言葉は魔法みたいだ」
「ジョンヒョンの瞳は宇宙みたいだ」
「ふふ、何それ。ヒョンのおかげて驚くほど元気になれたよ。そうだよね、そうだった」

何時もの人懐こい笑顔でそう言うので、本当に元気になったようだ。
元気になった途端に眠気が襲ってきたのか、瞼がパタリと閉じた。

「ヒョン、僕も、ヒョンが好きで、好きになったよ。ずっと。愛してる」

そう言うと、すやすやと眠ってしまった。休憩時間はあと1時間。

「僕も愛してるよ。今年もあと僅か、最後まで頑張ろうね」

そう呟いて、彼の温もりを感じながら仮眠を取った。

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