特設会場

□それも嫌じゃない
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同じ職場の後輩であるウヒョンは、口が上手くて、いつも新しい発想で俺を驚かせる、憎めない奴だった。



***



"定時5分後には席を立つ"をモットーにしている俺は、いつも通り定時きっかりにパソコンの電源を落として席を立った。
その時、資料を持ったウヒョンが俺の肩を叩いてきた。

「先輩、待って。一緒に帰ろ」

振り返りざま、俺は嫌そうに目を細めて鞄を抱きかかえる。

「やだ。お前、一緒に帰ろうって言ってから仕度終わるまで結構かかるじゃん。もう俺0秒で帰れるから。お前の事待つのダルい」
「急ぐから!」

への字に口を曲げた俺の肩を笑顔で叩くと、ウヒョンは小走りに自分のデスクに戻った。
しかたなく、俺は自分の席にだらしなく座った。


待つこと15分。


その間もウヒョンは他の人と話をしたり、メールを作ったりと、急いでいる様子は無かった。
俺は貯めていたゴミを捨てたり、デスク周りを片付けたりして時間をつぶした。
それでもウヒョンはまだ準備が整わないようだ。


しばらく自席で携帯をいじっていると、スッと後ろに立つウヒョン。
面白くない気持ちを引きずっていたが、何でもない顔で立ちあがってカバンを持つ。
ウヒョンは嬉しそうにして、ペコリと頭を下げた。

「先輩、お待たせしました」

悪びれのなさに、また少しモヤっとしたものを感じるが、何故か心底ムカつくというほどではなかった。

そこで、ふと気づく。

今日話すのは、そういえば久しぶりだ。



***



まだ仕事中の社員に挨拶をしながら並んで歩く。
ウヒョンは、「やっぱり待たせちゃいましたね」と言うが、まだ完全に許せる気がしなかった。
大人げない俺は、『気にするな』と声を掛ける事も出来ず、チラリと横を見てから前を向いた。
そのままウヒョンは話を続ける。

「だって、どうしても、一緒に帰りたかったんです。その、今日、先輩と全然話ができなかったから」

心を揺さぶられた気がした。


そういうこと、言うか?


「お前、ずるいよ」

思わず呟いた。

-

許す、許さない、じゃない。
好きだ。
完全に好きだ。
こいつの、こういう所が、凄く好きだ。

-

意固地になっていたのを少し恥じた。

「俺も話したかった。けどさ、何でそういう事、言うんだよ」
「え〜?だって、今日忙しかったじゃないですか?話ができなかったから、せめて帰り道で、こうして話がしたくて。ねぇ、ちょっとゴミ捨てて、トイレ行っていいですか?」
「俺はもうゴミ捨てた」
「も〜。そう言ってぇ」

「トイレだったら俺も行く」


体をぶつけながら進行方向を修正し合って、一緒にゴミ捨て場へ行き、トイレに向かう。


「ねぇ、先輩。明日も忙しいですかね?」

「さぁ?最近立て込んでるからな。どうかな」



***



互いの利用する路線は違うため、どちらかの改札近くまで行って別れることにしている。
この日はウヒョンが利用している駅まで送った。
頑なに改札前までの見送りは断ってくるので、いつも駅舎の屋根がある部分のギリギリで別れることにしている。
仕事の話やプライベートの話をして、お互いに姿が見えなくなるまで後ろを気にして逆方向へ歩くのだ。

「ソンギュさん、おやすみ。また明日」
「うん。ウヒョナ、おやすみ。また明日な」

こうして俺は、毎日毎日ウヒョンに毒されて、好きになって行く。


END

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