特設会場

□兄弟の関係
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今日もジホは缶づめ。
でも、アイツが好きでしてる事だから放置。
たまに顔を見せてやるけど、生返事。
でも別に気にしない。
俺は気まぐれで顔出してるだけだし。


同い年で、ちょこっとだけ俺の方がお兄さんだから、意外と真面目で自分のメンテナンスがずさんな弟を気にしてやってるわけ。
だって、それが兄の努めってやつだろ?
そんなわけで、缶づめ期間中のジホの所には2日に1回行っている。
ちょっと行きすぎ?
ホントは仕事熱心すぎるジホが心配なわけよ。
大体缶づめ期間に入ると、2週間弱くらいは平気で部屋に引きこもってしまう。
世話をしてやらないと、飯も睡眠も何もかも忘れてしまいがち。
そりゃヒヤヒヤするだろ。
それに、一日置きに顔を出してんのに、ジホはそれに気付かないんだから。
驚くよ。



ノックの音なんて聞いていないので、ノックなしで部屋に入る。
後ろからPCとジホの様子を確認し、声を掛けてよさそうなタイミングを見計らう。

「ジホ」

数秒してから、くるりと振り返る顔には、いつでも寝不足と書いてある。

「お前、最後に寝たのいつ?」
「あれ、ユグナ、今日久しぶり?」
「・・・・・・」

一日おきに顔を出してるなんて、わざわざ言う必要もない。
顔を背けると、机に並んだカップラーメンを持てるだけ持つ。
すると、勝手に閉じてしまうドアをジホが開けて、一緒に出た。

おや、珍しい。

いつもなら開けろと言わないと開けてくれないのに。
そして、何個か俺の手から奪った。
更に驚いていると、ジホが俺を見ずにはにかんだ。

「ユグナが来る時、いつも部屋が汚いんだ」

部屋を振り返り、「思ってるより、汚くない」と言うと、またジホは笑った。

「嘘ばっか」
「俺が掃除しとくから、お前は寝な」

ゴミを捨てると、手を洗うように指示しながら言う。
しかし、ジホは「でも・・・」と眉毛を下げる。

「ユグナが来る時、俺、いつも寝てる」
「俺が来ないと寝ないんだろ」
「そういう訳じゃないんだけどね」

キツイ顔のわりに、へらっと笑った顔は人懐っこい。
部屋に戻ろうとする俺の後ろについて来たので、「お前は向こう」と仮眠室を指さす。



いつも通り作業部屋に一人で戻ると、気になる食べ物の匂いを消すために消臭スプレーを撒く。
床に投げ捨てられた雑誌や書類を何となく分類ごとに分けて、邪魔にならないように机の端に並べる。
ゴミ箱の中身は半分ほどしか一杯になっていないが、それを縛って、新しいゴミ袋を入れた。
ジホは部屋をそれほど汚さないので、やることは多くない。

俺がここに来る目的は、ジホに飯を食わせることと、少しでも仮眠を取らせる事なのだ。

ゴミ袋を持って、所定の場所に捨てる。
手を洗ってから、いつも通り、ちゃんと寝ているか仮眠室を覗く。
できるだけ音を立てないようにドアを開けて様子を伺う。
携帯が枕元にあるが、着信があって起きるのならば意味がない。
何せ、ジホの携帯はほぼ無休なのだから。
いつも仮眠室に携帯を持ちこむなと言っているのに、また持って来たのか。
そっと手に取ると、仰向けに寝ていたジホの目がパカッと開いた。

「わ」

小さく声をあげ、片眉を動かす。
寝ろと言ったのに、起きていたのか。
携帯をポケットに入れると、布団から手が伸びて、手首を掴まれた。

「ユグナ」
「寝てろ」
「俺の携帯、見たいの?」
「ちげーよ。前も言ったけど、着信音で起きるなら仮眠の意味ない」
「携帯を携帯しないなんて、意味無いじゃん」
「緊急っぽかったら、起こしてやるから」

掴まれた腕を強引に振りほどき、立ちあがる。
しかし、いつもは抵抗しないジホが、今日は少し様子が違った。
ベッドから離れた俺を制止するように、起き上がって二の腕を掴んできた。

「んだよ。寝ろって」

嫌がるように肩を振ると、しがみついて来た。

「やめろよ」
「ユグナ」
「とりあえず離せ」
「一緒に寝よ」
「はぁ?」

仕事のしすぎで頭湧いてんのか?

動きを止め、ジホを見る。
それを肯定ととったのか、ベッドに引っ張られた。

「おい、俺は寝ねーぞ」

起き上がろうともがくが、ジホに小声で「シー、仮眠室では静かに」と言われて大人しくする。

「掃除、終わったんでしょ?」
「終わってねーよ」
「じゃ、もうしなくていいから。一緒に寝よ」
「寝ない」
「じゃ、俺も寝ない」
「んでだよ」

上から覆いかぶさるように抱きつかれた体制で、顔が見えない。
額に手を当てて顔を上向きにさせようとするが、唸って嫌がる。

「うー、ユグナー」
「あんだよ」

若干面倒になって体の力を抜くと、ジホが顔を上げた。

「俺、変かも」
「あ?」

返事をすると、顔がどんどん近づいて、背けた頬に唇の感触。
カッと頭に血が上り、のしかかっていた体を押しのけた。

「おま、!」
「痛いよ、ユグナ」
腹が立った俺は、何も言う気になれず、仮眠室から出た。



明るいリビングに出て、帰り支度をする。
ジホが仮眠室から出る音がしたが、無視だ。
名前を呼ぶ声がしても無視。
キャップをかぶり、あいさつもせずに玄関へ向かう。
後ろからジホが「ユグナ、ご飯は?」と言うので、振り向かずに「勝手に何か食っとけ」と答える。

「ユグナは?」
「適当に食って帰る」
「ユグナ、待ってよ」

腕を取られ、反射的に振りほどく。
目の端で捉えたジホの顔は、ひどく憔悴していた。

ちりっと胸が痛む。

「お腹減った・・・」

しゃがみこんだジホを見降ろし、ため息をついてから、俺も座って背中を撫でてやった。
薄い背中は以前よりも肉が無いように感じた。

「ちゃんと食えって、いつも言ってるだろ」
「わざとじゃない。気付いたら時間が過ぎてるんだ」
「はぁ、もう・・・」

ごく稀に見せる弱ったジホの姿。

「腹が減って、眠れなかったのか?」

頭を振る。

「俺は作れないからな。出前頼む?」

少し振る。

「腹減ってんだろ?」

頷く。

「どーしたいんだよ」

背中を優しく叩くと、おずおずとジホが口を開いた。

「ユグナも一緒に食べよ」

ああ、一緒にしたいのね。はいはい。

「わかったよ。一緒に食うから」
「ジャンジャン麺食べる」
「はいはい」

出前はよく頼むので携帯に番号は入っている。
その場で連絡を入れると、40分程度で来てくれるとの事だった。

「しばらくしたら来るって。来たらすぐに起こしてやるから、寝とけよ。な?」

中腰の格好になってジホに声をかけると、Tシャツの裾を強く引っ張られる。

「伸びんだろ」

仕方なし、もう一度膝を折ると、床に押し倒された。

キャップが転がる。

「俺、床掃除には来てねーけど」

ジャケットが汚れる気がして気分が悪かった。

「ユグナ、今日、俺、変」
「だな。変だぞ」

髪の毛が床に着くのが嫌で、頭を少し浮かせると、その下にジホの手が入りこんで俺の頭を包んだ。
ジホの手を枕にして力を抜くと、がっちりホールドされた顔を浮かされて、そのままキス。

「!!」

すぐさま払いのけて上半身を起こす。

「てめー、さっきからマジ何なんだよ」
「だから、今日変なんだってば」
「理由になってねーよ」
「何かめっちゃSEXしたい気分」
「は、一人でしろよ」
「それはSEXとは言わない」
「少なくとも、俺に手伝えることは1つもないから、どけ」
「だめだ。俺今プレイボーイ中」
「意味わかんね」

睨むと、ジホは降参のポーズで笑う。

「分かった。寝る。寝るから。仮眠室行くからさ、ユグナも一緒に来てよ」
「あんなんされて、誰が行くか。起こしてやるから寝てこい」
「一人で寝るの、寂しいじゃん。そんな気分なの」

舌打ちをして、さっさと仮眠室に行くと、大人しくジホはついてきた。



薄暗い仮眠室、部屋の奥に行ってベッドを顎でしゃくった。

「ほら、寝ろ。見ててやるから」

ベッドに入ったジホを見ていると、こちらをじっと見つめてくる。
こっちへ来いと言っているような目線に、やれやれと溜息をついた。
足元の掛け布団がよれているのが気になり、整えるついでに少しはみ出た肩が隠れるようにした。

「ユグナってさ、なんだかんだ、優しいよな」
「そうだよ。俺は優しい」
「それ自分で言う?」
「お前が言ったんだろ」

布団におさまっていた手が出てきて、ポケットに引っかけた俺の手を触ろうとする。
本気で伸ばせば届く距離だが、俺が反応するのを待っている。
近くをうろうろする手を、はたき落とした。
パタリと落ちた手が、しばらくくったりしていたが、もう一度俺の手を探し求める。
しょうがないので、ほんの少し手を近づけると、すぐに握ってクイクイと引っ張る。

「おめー寝ろって」
「手、握って」
「寝る気あるか?」
「ある。人の体温が近くにあると、良く眠れるって、どこかで聞いた」
「迷信じゃねーの」
「試させてよ。最近うまく眠れなくて」

こいつ、計算か?

そう言われたら、断れないじゃないか。
出来るだけ嫌そうにして、わざと大きくため息をついてから、ベッドのわきに屈む。
ジホが布団に空きスペースを作って待っていて、握ったままの手を引っ張られた。

一緒に寝ろと?

「俺、ジャンジャン麺受け取んないとだから」
「少しでいいから」

しょうがなく布団に入るが、片足はベッドに乗り上げず、すぐに出られるように体制をつくった。
ジャケットを着たままで息苦しい。
仰向けになった俺の右腕にジホが絡まってくる。
本当に今日のジホは変だ。

「ジホ、今日何かあったのか?」
「特に」
「ま、いいや。寝れそう?」
「うん」

ごろんと俺の右半身に転がってきて、うつ伏せに落ち着く。
体が半分重なり合った状態だ。
べたべたしすぎ。
過剰なスキンシップを我慢していると、調子に乗ったジホは胸の上に乗っていた頭を上げ、のそのそと近づいてくる。
そして、首筋に顔を埋めて抱きついた。

「重いんだけど」
「あー、めっちゃSEXしたい」
「変な事したらマジで切れるから」

2度の経験から、事前にくぎを刺す。

「仏の顔も3度までって言うし、もう一回はありかなって」
「しらねーのか?3度目はアウトだぞ」
「じゃ、ユグナの顔も4度まで。あと一回セーフ」
「勝手に作んな」

アホくさすぎて少し笑ってしまう。
一緒に笑ったジホは、のしかかっていた体を離して隣にあおむけになった。
性欲はおさまったらしい。



そのまま少し眠って、出前業者の着信で起きた俺達はすぐに飯にありついた。
飯を食い終わると、もう一度眠るようにジホに言い聞かせて、俺は早々に退散した。

なんとなく、もうしばらく一緒にいたら間違いが起こりそうで怖かった。
発情期(らしい)ジホに襲われるとか、シャレにならない。



2日後、ユグォンがジホに襲われるのか否か、それはまた別のお話。



END

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