特設会場
□アホとツンデレ
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アホのドンへは生まれ年が同じである俺を必要以上に構いたがる。
寂しさからか独占欲からか「俺以外の人と仲良くするな」と言ってきた時は、いよいよ救いようがないと思った。
「ウニョギは俺に冷たい」
怒ったような、ちょっと甘えたような顔でそう言われても、相手はアホなので真に受けてはいけない。
完全に無視だ。
そうすると、凛々しい眉毛をハの字にして俺の右腕に絡んでくる。
「ねぇ、ウニョガ…無視しないでよ」
鬱陶しいが、振り払うのも面倒で、はいはいと言ってあしらう。
右腕がホールドされているので、左手を回してハグするように彼の肩を叩いてやると、満足して笑顔になる。
単純な奴め。
「ウニョギが俺を嫌いじゃないのは分かってるけど、寂しいよ」
「誰が誰を好きだって?自惚れんなよ」
きっぱりそう言ってやると、絡んでいた腕が離れ、あからさまにしょんぼりする。
「たまには愛の言葉のひとつでも囁いてくれたっていいじゃん」
「はぁ?ファンの前でも何でもないのに、誰が言うかよバカじゃねーの?」
このアホには、俺の『誰も好きなんて言ってないのに嫌いじゃないを好きに変換して受け取っちゃうツンデレ』は理解できないのだ。
分かりづらいし、可愛くないし、そもそも伝わらない事を分かっていても、自分にとってはそんな表現しかできない。
精一杯の歩み寄りは通じないのに、冷たい言葉だけは的確に伝わってしまう。
アホはアホで全然平気だったり、それがきっかけで随分落ち込んでしまったりするらしい。
今回は後者の方で、「何だよ冷たい奴」と口を尖らせつつも、離した手をもう一度俺に絡ませてくることは無かった。