Realヴィ

□北斗七星
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黒子を辿ると、何かの絵になるかもしれない。
そう思い、首元からスタートしてみた。
次の点に指を動かすと、君が震えた。
そこで、僕は声を上げる。

「ああ、ダメかも」

君は片目を開けて、僕を見る。

「何がダメなの」

僕は肩をすくめて君を見る。

「黒子を繋げれば、何かの模様になるかと思ったんだけど、なりそうにない」

潤んだ目で僕を見ていた君は、呆れたように笑う。

「そりゃぁ、ただの黒子だもの。確かに、その辺りに集中してるかもしれないけど、模様には、ならないよ」
「残念」

もう一つ、指をスライドさせる。
近くにありそうな黒子はとりあえずなぞった。
辿りながら「ひしゃくのさ」と言う。
君は擽ったいのを堪えながら、「ひしゃく?」と相槌を打ってくれる。
僕はそのまま続けた。

「ひしゃくの形の星座があるじゃん」
「ああ、あったかも」
「それくらいは、なるかなって思って」
「俺の黒子が星に見えたの?」
「辿りたくなった」

僕が指を離すと、君は首をさすった。
描いた線を消されたようで、面白くないなと思った。
黒子のある首に噛み付く。
はじめは抵抗されたけれど、甘嚙みの間から舌を覗かせ、ねっとりと舐め上げると、とたんに大人しくなった。
君は震えながら、浅く息を吐く。

「てぐな」

早くも熱を孕んだ声に呼ばれ、君を見れば、その目は僕の唇に注がれていた。
僕が唇を舐めると、喉を鳴らして唾を飲み込んだ。
出していた舌をゆっくりと自分の口の中にしまう。
薄く開いた唇から、舌を覗かせると、誘われたように君が近づく。
いよいよ食べられそうになったとき、「ハギョナ?」とわざと声をかけた。
すると、ハッとしたように動きを止めて僕を見た。
昂り始めた君とは裏腹に、僕はまだ欲情していない。
もちろん、多少はしているけれど。
恥ずかしくなったのか、君はわざと頬を膨らませて「テグナのせいだよ」と目を伏せた。

「なにが」
「誘っといてさ」
「僕が?」

僕は脳の奥の方がざわざわと痺れ出した。
素直にキスされても良かったけど、こうして拗ねた顔を見るのも楽しい。

「ハギョナ」
「なに」
「キスしようか」
「ねぇ、さっき、誘ったでしょ」
「僕が?」

ループした会話。
愛おしい。
君はどうやら、自分が欲情したのは僕が誘ったからだと、僕の口から言わせたいらしい。

「ハギョナは、キスしたくないの?」
「誘っといて、遮ったのは誰」
「誘ったっけ?遮ったっけ?」
「ねぇ」

声を荒げる君。
でも、駄々をこねたような態度で、ちっとも怒ってると思わない。
可愛くて笑ってしまう。

「俺、怒ってるよ?今。分かってる?」

そろそろ、素直になったほうがよさそうだと判断し、君の頬を撫でた。

「全部、僕のせいかも」
「かも、じゃないの。僕のせいです」
「全部、僕のせいです。ハギョナがキスしたくなったのは、僕のせい」

余計な言葉を追加する。
予想通り、君は少し考えてから、ちょっぴり切なそうな顔をして抱きついて来た。

「ごめん、テグナ」
「ん?」
「全部がテグナのせいじゃないよ」
「どうしたの」
「誘ったのは100%テグナで間違いないけど、したくなって近づいたのは俺の意志」
「そう」

大したことじゃないのに、律義な君。
でも、この反応が見たくて、わざと言った。
僕の勝ち。
そろそろ、ご褒美貰おうかな。

「ハギョナ、キスしていい?」
「うん。ねぇ、キスだけじゃなくて、したいな」
「いいの?」
「嫌なの?」
「まさか」
「本当に?」
「ハギョナ」
「テグナ」

好きだよ、の気持ちを込めて、唇で君の体温を感じる。
君の黒子の位置を思い出しながら、首筋をなぞった。
君は震えながら、熱い息を僕の口内に吐いた。
僕の脳みそは、クラクラと溶けて行って、もう、君以外見えない。
ちらりと視界に入った黒い星。


あれは確か、北斗七星。

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