Realヴィ
□愛のカケラB
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エニョンとのいざこざのあと、お互いにうまく仕事はこなしていた。
話すべきシーンがあれば、いつも通りに話をして、目も合わせた。
けれど、宿舎で一緒に過ごす時間はほぼ無くなった。
それはお互いのスケジュールが忙しかったせいもある。
忙しい6割、避けてた4割。
あれから数日経ったある日、部屋でツイッターを眺めていたところにホンビンが訊ねてきた。
「ケニョン」
「うん?」
「エニョンが落ち込んでるんですけど」
「ほんと?」
エニョンと気まずくなってから、彼の様子を伺う事をしなくなった。
見たら抱きしめたいと思ってしまうから。
そんな事、絶対に許されない。
特に、今は。
それにしても、何かあったのだろうか、心配になる。
が、次のホンビンの言葉に体がフリーズする。
「ケニョンさぁ、エニョンのこと振ったんでしょ?」
「・・・は?」
笑う事もできず、ただホンビンの顔を見上げた。
「ビナ、何を言い出すの」
「だから、エニョンが、ケニョンに告白したのに、振ったんでしょ?」
「な・・・」
僕は分かりやすく狼狽した。
ホンビンが更に追い打ちをかける。
「エニョン、落ち込んでます。ひどいですね、ケニョンは。毎日毎日、好きとか愛してるとか言ってたくせに、エニョンの気持ち、踏みにじるなんて」
「踏みにじってなんか、」
「踏みにじったんだよ!」
ホンビンの気迫に、僕は本気でたじろいだ。
「なんで、踏みにじった事になるんだよ」
完全に押された僕は、小さな声で呟いた。
すると、ホンビンは僕の肩に手を置いて、優しい声で問いかけた。
「ケニョンは、毎日、エニョンに愛を届けてましたよね?」
「うん、まぁ・・・」
「エニョンは、その言葉に、少しずつ、勇気を貰ってた」
「勇気?」
「そう。はじめは気付けなかった、勇気。エニョンが、ケニョンを好きになるための勇気。エニョンは、ケニョンを好きになって、だから、ケニョンに告白したんだ」
僕は口をぽかんと開けてホンビンを見た。
冗談みたいに聞こえたが、ホンビンの目は優しく、温かい色をしていた。
「ねぇ、ケニョン。エニョンは今、落ち込んでますよ。ケニョンに振られたから。だって、『信じない』なんて、そんな意地悪。ケニョンが信じなきゃ、誰がエニョンの気持ちを受け止めてやれるんですか。ねぇ、エニョンは、ケニョンに勇気を届けようとしたんですよ?」
「エニョンが?」
「そう。いくじなしのケニョンは、本気でエニョンに告白できなかったから、エニョンは、ケニョンに伝えようとしたんだ。俺はお前が好きだよって。俺を好きになっていいよって」
思わず僕は噴き出した。
おかしくて、じゃなくて、ホンビンの言う事が、僕にとってあまりに都合がよすぎて。
「はは、ホンビナ。お前の話、何でそこまで知ってるんだ?って疑問はさておき、お前が用意した台本、俺に都合がよすぎるよ」
「そうですか?」
「うん」
「じゃ、台本通りか、本人に聞いてみたらどうですか」
「無理」
「何でですか。いくじなし」
「うるさいな」
半ば意固地になり、ホンビンから顔を背けた。
後ろで息を吸う音がした。
「イ・ジェファン!」
驚いてホンビンを見る。
「な、なに」
「この、チキン野郎!僕はエニョンの行動心理をよく理解しているつもりです。ケニョンはずるい。エニョンの心を浸食しつくしたくせに、今更エニョンを捨てるわけ?エニョンを悲しませるのも、エニョンを救えるのも、今ではケニョン次第だっていうのに」
「何だよそれ。どっかで聞いたような言い回しだ」
「いいから、とっととエニョンの所に行って、俺が悪かった毎日エニョンを愛してるって抱きしめてこい!」
反論を許さず、ホンビンは俺を部屋から追い出した。