特設会場

□通い妻
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マンションにつくと、部屋番号をプッシュしてインターホンを鳴らす。
すぐに自動ドアが開き、「待ってたよ」という声がした。
入ろうとしたところで、「リョウガ」と声がした。
「何?」と返すと「ポストの中のもの、持ってきて」と言われた。
人の家のポストを覗くのは気が引けるなと思いながら、「わかりました」と言って中に入った。

ポストを開けると封筒が入っていた。
しかし、宛名がない。

「これ、大丈夫なやつかな・・・」

持ち上げ、透かして見たが、良く分からなかった。
小さな固いものが入っている感覚だけで、それほど危険はないだろうと持っていくことにした。

エレベーターを上がり、門に手をかけると、家のドアが開いた。

「リョウガ、待ってたよ」

相変わらず美しいヒチョルさんは、見とれる笑顔で僕を迎えてくれた。
それから、自然な流れで、スーパーの袋を受け取った。
そんなことしなくていいと言おうとしたが、肩を押された。

「いいから、早く入れ」

少し強引な態度だが、それがヒチョルさんの優しさだと言っている僕は、何だか顔が熱くなった。
大人しく靴を脱いで部屋に入る。
いつものスペースに荷物を置いてから、ポストの中身の事を思い出した。
冷蔵庫に買って来たものをしまうヒチョルさんに声をかけた。

「ヒチョルさん、ポストの中に、こんなのが入ってました」
「ん?」
「封筒。宛名もないんです」
「ふうん」
「怪しいかなと思ったんですけど、危険物じゃなさそうなので、一応持ってきました」
「へぇ、開けてみろよ」

ウキウキした声で言うヒチョルさんを見て、本当に怖いもの知らずだなぁと感心した。
言われた通り、封筒を開けて中を覗く。

「ん?鍵?」
「鍵?」

ヒチョルさんを見る。
きょとんとした顔で僕を見てくるヒチョルさんに、わざとらしさを感じた。
手のひらに出すと、見覚えのあるストラップのついた鍵が出てきた。
改めてヒチョルさんを見ると、いたずらがばれた子供のような顔でどこかに行った。
そして、戻ってきたと思ったら、同じストラップのついた鍵を僕に見せた。

「それ、合いカギ」
「な、何で・・・?」

戸惑う僕に、困惑したヒチョルさんが「嬉しくない?」と聞くので、慌てて頭を振った。

「そ、そういうわけではなくて・・・」
「いや、リョウギも持ってた方が便利だと思ったんだよね」
「便利?」
「あ、あれだよ、悪い意味に取るなよ?」
「えっと」
「あの、例えば、俺が寝坊した時とか」
「寝坊しないでください」
「そうだけど」
「リーダーは?」
「緊急時は管理人に電話すればいいし、別に渡してない」
「そ、そうですか」
「個人的に、リョウギに持ってて欲しいと思ったわけ」
「あ、そ、そうですか」

突然の特別扱いにドキドキした。
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