夢小説・V
□溶けていく。
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溶けていく。
溶けて全部無くなっていく。
でも、それでもいい。
― 溶けていく。 ―
「あっつい!!」
「こら、お行儀悪いですよ」
「だって、あっついでしょ!?」
エアコンの真下に陣取って、扇風機まで味方につけ、更におでこには冷却シートという最強装備の私。
それに加えて部屋着はノースリーブのワンピース。
最強。最強なのだ。これにアイスも加わっていただきたいけれど、きっと秀くんが許してくれない。(「お腹を壊すからダメです」ほら、簡単に想像できるでしょう?)
その完全完璧ハイパーミラクル最強最高・・・って、何言ってるのかわからなくなってきた!
とにかく、涼しいことに間違いなし!!快適ありがとう!!を体現しているはずの私が暑いのはおかしいでしょう!?
でもね・・・でもね・・・
「秀くんは暑くないの・・・?」
襟首をパタパタ、スカートをパタパタさせる私にもう一度「こら」と言ってから白シャツにジーンズ姿の彼は
「オレは別に?」
・・・などど爽やかに言ってのけた。
彼は「爽やか好青年」代表のような男である。
爽やか青年コンクールがあれば優勝間違いなし、表彰、一等賞、あなたが一番ナンバーワン!
・・・まぁ、そんなコンクール無いんだけど。
とにかく、秀くんは暑くないそうです。あぁ、そうですか。それは羨ましい限りでございます。
「私は暑いの!!」
だって、今日の予想最高気温は35度。さんじゅうごど。聞きました?35度ですよ?
ちょっとぬるめのお風呂じゃないですか!!半身浴できちゃう!
秀くんにぷいと背を向けてエアコンの冷風を体全体で浴びようと背伸びをし、手を伸ばす。
世の中は寒がりな女性と暑がりな男性で構築されてるなんて誰が言い出したのかしら。
こんなに暑がりでは秀くんと結婚してからエアコンの温度設定で揉めないかと今から不安・・・。
って、まだ結婚の予定ないけど・・・
やがてやって来るかもしれない(出来ればやって来てほしい)未来に想いを馳せ、暑さを少しだけ遠くに感じた頃
「現在、こちらの気温はなんと36度です!」
秀くんがふいにつけたテレビで女性アナウンサーが額に汗しながらもにこやかに現実を突きつけてきた。
さんじゅう、ろくど・・・?
・・・だぁぁあ!!と、ちゃぶ台があったらひっくり返したい衝動に駆られる。無いので仕方なく温くなった冷却シートを勢いよく額からはがした。水色のシート、色だけは涼しさを保っている。
「まぁまぁ、ちょっと落ち着いたら?ほら、コーヒー」
ご丁寧にコースターを敷いてアイスコーヒーは机の上に鎮座する。
氷が浮かんだ黒い液体。誰がこれを美味しく飲めるなんて発見したのかな。世界の神秘。
「ありがと」
椅子に座る前に、ちゃっかり扇風機の風はこちらへ当たるようセッティング。
「ミルクとガムシロップ入れる?」
「うん、入れる入れる」
ガムシロップは2つ、ミルクは1つ。この暑さ、糖分でも摂らなければやってられないわ。
ガムシロップが黒を歪ませて、ミルクは黒を侵食していく。
ストローで混ぜると、コーヒーは必然的に薄茶色の液体へ変わった。
「・・・溶けたね」
秀くんは、何か愛おしいものを見る目でその様子を見ていた。
「うん、溶けたね・・・」
つられて私までセンチメンタルになってしまう。
扇風機の「強」の風が心地よい。