夢小説・V

□溶けていく。
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彼は時たま妙な落ち着きを見せる。
それは千年を生きてきた妖狐だから何かと達観しているのだろうけれど・・・

私はお子様すぎてその落ち着きについていけなくなるのだ。
そんな時、私はいつも黙ってしまう。
秀くんにつり合いがとれているよう振る舞うには、それしか方法が思いつかないのだ。

無言でカラカラと音を立てながら、もう完璧に混ざってしまったアイスコーヒーを持て余す。
相変わらず、秀くんは柔らかな目でこちらをみて微笑んでいた。

私もいつか秀くんの心についていけるような大人になれるのかな。

秀くんの心は、大きく枝葉を広げた樹でいつも私はその木陰に守られている。

そう感じているうちは、きっとまだまだ修行が足りないのだろうな・・・。

コーヒーをひと口飲むと、汗をかいた身体の隅々まで甘ったるさが染み渡っていくのを感じた。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




さっきから「暑い」「暑い」とお嘆きのお姫様にコーヒーを入れて差し上げた。

お姫様はガムシロップを2つも入れ、コーヒーをただの甘い茶色の液体へ変化させてしまった。

彼女は、不思議な人。

千年も生きてきた過去をもってしても、こんなに変・・・おっと失礼。こんなに面白い人間に出会ったことはない。

面白い、というのは少しばかり語弊があるような気もするけれど・・・そうだな、一緒にいて楽しい、と言えば誤解は薄れるだろうか。

彼女の事は見ていて飽きない。
オレの事をどう思っているのか定かではないけれど、嫌われてはいない。いや、好かれている。(自分で言うと恥ずかしいな)

彼女はたまに黙って大人びた表情をする。
それはオレが彼女を見つめすぎるからかもしれないが・・・彼女のその表情がオレはとても好きだ。

早く大人にならなければと焦るシンデレラは、うっかりガラスの靴を落としてしまいそうで危なっかしくて放っておけない。

ついつい手を差し伸べてしまう。守ってあげたい。側に居たい。

ガムシロップとミルクがコーヒーに溶けるように、バラバラだったものがいつの間にかひとつになる。
それはとても不思議で、愛おしくて、君とオレを重ねてしまう。

君はありのままでいて欲しい。
背伸びなんかしなくてもいいけれど、君が正解だと思うように生きて。オレと一緒に生きて。

他の何にも代えられない形になろう。

君の笑顔は、オレが守るから。



溶けていく。
溶けて全部無くなっていく。

でも、それでいい。




君とオレの形は、君とオレだけに見えればいい。





おわり。









・あとがき・
久しぶりすぎる更新。お待たせしました・・・。
ほのぼの風味で書いてみました。書いていて落ち着きます。ほのぼの最強!
名前変換なしでお送りしました。
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