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□大食い系乙女ですけど何か
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何故か思っていたよりあの人とは親しくなれそうだ、と黒いふかふかのソファに座りながらそう思った。
いや、ほらだってあの本読むとめっちゃムカつく奴で、めっちゃ弱くい奴で、めっちゃ最低な奴な筈なのに不思議とそんなに悪い人じゃないような…

でもきっと、最後はあの海賊団を捕まえようと、あの綺麗なお姉さんを捕まえようと、あらゆる手段を使うだろう。
あの青いリーゼントさんを殴り、お姉さんを蹴り飛ばし。
あぁきっとこの人はやるだろう。

そして今、どこから出したのか茶色い封筒をちょーかんに渡し、何だか難しい話をしているあのモジャモジャ男も、きっと彼らに攻撃するだろう。

だけど彼ら対になる存在。
ドロボーを見過ごす警察が居てたまるものか。
だけどそこに【死】と言う字が入るともう訳が分からなくなる。
いくら罪人でも、殺してしまったらもうそれは正義、と胸張って言えるのだろうか。
いや、それは私が住んでいた、あの小さな島の考えなのだろうか。…違う。きっと死罪に賛成の市民はそれなりに居るだろう

ならば私は死罪に反対派、という"側"なのだろう。そんな考え方の私がここに居て良いのだろうか。

チラッと二人の方へ盗み見をすれば、封筒から何やら絵みたいな物を、数枚取り出している。

その一枚と目が あった
真っ赤に色の中に頭と体がある。
そう"頭"と"体"だ
二つに 別れている。

あぁもう何の話をしているのか聞きたくない。何の写真なのかもう見たくはない

彼に助けてもらった時、彼は海賊を三人、倒した。
倒した、という表現は可愛い方だ。
約1名は多分もうこの世界には居ないだろう。
あの技で貫通された背中を私は見た

あの時はまだ脳が混乱していて、少しパホーマンスか何か、と思っていたが、ここまで来ればもう分かる。
あの人は死んだ、この男が殺したのだ
それもあんな簡単に。
この世界では当たり前…とは言わなくても、なくは無いと世間は言うだろう
それに彼は正義であの人は海賊だ。
どっからどう見ても彼が正しい。

本当に?どっからどう見ても?

私は確かにあの時喜んだ。
あぁ助かった!、と
あの海賊が倒れた事を、死んだ事を喜んだのだ。

痛い

どこが?
ルッチさんに殴られたところが?
引っ張られた髪が?

「おい」
「、あ!はい!何でしょう!」

悶々とまたもや考えていたら、ルッチさんに声をかけられた。
し、しまった!また何か話しかけられていたのか!聞いてなかった!ヒィ!!殴られる!!

「…まだ治らないのか」
「、へ?」
「なンだァ?名無しの権兵衛、てめェどっか悪いのか?」

突然一体何だなんだ?
まさか頭の話じゃないだろうな

「残念ですが、コイツの脳は治らないかと」
「ちょ、ルッチさん?!ベタな方向へ持っていこうとしないで下さい!!」

こんなコントみたいな事船でもしたわ!

「だろうなァ。生まれ変われば多少は良くなるだろうに」
「待ってください長官様!そんな手段しか残されていないなんて!!そんなの私は認めない!!」

こっちもかオイ!

「私はいたって健康ですよ!!」
寧ろ今不健康になりそうだ

「何言ってやがる。さっきまで船酔いだっただろうが」

、え

「な、なんで知ってるんですかッ」
「ダッハッハ!ダッセェ!船酔いかよ!」
前言撤回、あのパンダ、やな奴

「道理で遅ェと思ったんだよ!ルッチならいつも剃で駆け上がって来ンのに、随分と時間かかるなァと!」
ダッハッハ!船酔いとか貧弱だなァてめェは!
そうデスクをダンダンッと叩きながら笑うこのパンダを、毛皮ショップに売り飛ばしても良いだろうか。

というか、やっぱり

「ルッチさん、わざわざ歩いてくれたんですか?」
「なんだ、先に行って良かったのか」
「いやいやいやいや!!道分からないですよ!迷子!迷子りますって!!」

ここ、迷子センター無さそうだしアカンですって

「抱えて飛んで、その辺に吐き散らかされたら堪ったもんじゃねェ」
「ンな汚ェ話!ここですんじゃねェよルッチ!」
「ちょーかん酷い!最低!嫌い!」
「え?!怒ったからァ?!」

…何だかあの本で出てけるシーンが再現されているような気がするが、そんなの今は無視だ無視

え、待てよ
じゃあルッチさんは、私が船酔いと知ってわざわざあの距離を一緒に歩いてくれたのか?

そう言えばさっき橋渡る時、あのお兄さんは驚いていたっけ。
もしかしてあの橋も?いつもはあの物騒な技で跳ぶのに私の為に?

「、ッチさん」
「まずは雑用の前に、その貧弱を治せクズ」
「んな!私がか弱い乙女と知っていた癖にその発言は酷いですよ!!」
「か弱い乙女って…お前ェいくつだよ」
「何ですかちょーかん!私はこれでもギリギリ10代の可愛い可愛いおんにゃの子ですよ!」
「「…」」

やめて!
そんな苦しそうな目で見ないで!!

「そういう長官なんて、もう私の2倍くらいあるんじゃないんですか?!」
「馬鹿野郎!俺ァまだ34だァ!!」
「はぁぁあ?!嘘だ!嘘っぱちだァ!」
「ンでだよ!!ルッチ!てめェ今23だよなァ?!」
「はい。そうですが何か」
「え?ルッチさん30代じゃないんスか?」

ゴンッッ

「イッテェェェ!!!ひどい!!怒ってもいいけど殴らないでくださいよ!!」
何だ!もう年齢気にしてる系か!お前は女子か!

「俺とルッチは大体10歳差なんだよ!どうだァ!分かったか!俺はまだ40代にゃ遠いンだよォ!!」
お前もか!お前も年齢気にしてる系なのか!
つか34だか40だが知らんが同じだ!どっちにしろもうおっさんだアンタは!!

「ッテェ〜チクショコンニャロー」
しばらく殴られてなかったのに!クソ!ちょーかんの所為だ!!

ん?あれ?
なんで殴られてなかったんだ?
あぁ、私が良い子だったからか
ならやっぱりちょーかんの所為だ

「ちょーかん嫌い」
「え?!威張ったからァ?!!」
あたふたし始めるちょーかんに、あっかんべーしてプイッとそっぽ向けば

「そ、そーいやさっき使用人が菓子焼いたんだった!ほら食うだろ名無しの権兵衛?!」
とコーヒーの横にあるクッキーを見してくる始末だ

司法の塔のお偉いさんが雑用にこの有様、と随分おかしいけど、やっぱりこの人は嫌いになれない。

「わーいわーい!名無しの権兵衛食べまぁーす!」
「おい!食い過ぎて船酔いになった癖にまだ食うのかお前は!」
「ゲゲッ!そこまでバレてたんスか?!」
「随分と恥ずかしい奴だな」
「長官、コーヒー顔にかけますよ」

彼の居るデスクに向かいながら、そうジェスチャーすると慌ててコーヒーを飲み干す長官

その横でさっきの絵だか写真だかを、私に見えないように裏返しにするルッチさん

あぁやっぱり嫌いになれやしない。

この二人はきっと、死罪賛成派だろうけど、
地位を、権力を欲する、血を、欲する、あちら"側"だとしても、私はきっと嫌いにはなれない。

「中々うめェだろ名無しの権兵衛!って、あ!オイ!!」
「バカヤロウ!書類に溢すんじゃねェ名無しの権兵衛!」

私はこの二人がきっと、大スキだ。



.
(美味しい!!なんでここの食べ物はみんな美味しいんだ!!)
(おい、それ以上食ったら太るぞてめェ)
(程々にしろ。豚になりてェのか)
(なんで二人ともそんな女子目線なの?!)


ヒロインちゃんを殴らなかったのはルッチさんの優しさです。
船からずっと気分悪そうなヒロインちゃんをちょっと気にするルッチさん美味しい

うちん家のルッチさんは(それとなく)ええ子ですのでご注意を!!


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