世界樹冒険録X
□吸血鬼と天使
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僕は吸血鬼だ。
人間と比べたら体温は低いし、もしかしたら心臓も動いていないのかもしれない。
生き物の血を吸う、怪物ともいわれる。
太陽にはあまり強くない。だから昼間の探索は身体に障る。なので極力日を避けるようにしている。
逆に夜は平気。むしろ夜の闇から力を得ているような感覚がする。
銀はあまり好きじゃない。聖水も、別に浄化されるわけではないけど好きではない。
これらが嫌だから、どうにかしてこの体の改善をしたい。可能なら「人間になりたい」という願いを持っている。
その願いを叶えるのに、冒険者になることを選んだ。
だから、世界樹を探索しているエーレ達のギルドに入れてもらった。
以前からエクラと多少の交流もあり、彼らのしている事を知り、興味を持ち、もしかしたらという望みにかけた。
……まあ、そこまではよかったんだよね。
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突然首元に突き付けられる鎌。
鎌を突き付けている白っぽい銀髪の青年の蒼い目は冷えている。
「──ああ、とても不吉。よくもまぁぬけぬけと冒険者になりたい、なんてほざく不浄の者がいるなんて」
吐き捨てるように青年が言う。…不浄の者。信仰深い者から見れば確かに僕はそうなのだろう。でも……
「出会って数秒でそれを見抜く、君も只者ではないですね?」
ぴくり、と青年の肩が震えた。
「自己紹介がまだでしたよね。僕はノクス・シュヴェーアト。君の言う通り、不浄の者──吸血鬼だ」
ニコリ、と笑いながら自己紹介をすれば青年が眉を顰める。
「よくもまあ呑気に自己紹介なんて出来ますね。今の貴方は殺されそうになってるんですよ?」
「そうだね。でも…そんなあっさりやられる気はしてないよ」
「……出来るものなら」
青年が言い終わる前に、コウモリに姿を変える。青年の背後を取り、人の姿に戻ると血で作った槍を突き付けた。
「ふぅん?」
突き付けられてもなお、青年は表情を変えない。
パッと見はこちらが優勢。しかし青年は動揺もしない。…まだ何かあるというのだろうか。
「そちらが自己紹介をしたのなら、こちらもしなければフェアじゃないよね。僕はエトワール。アルカディアの天使だ。…元、がつくかもしれないけどね」
天使?
青年──エトワールはどう見ても人間にしか見えない。ただの脅しか?と思ったその時
風が吹いて、エトワールのマントが翻る。その背中には──
「…羽?」
人間には決して、ましてや吸血鬼にもあり得ない、背中に白く小さな翼が生えていた。
それを見た瞬間、寒気がした。
吸血鬼の本能的な物なのか、頭の中で警鐘が鳴る。
彼は、本物であると──!!
咄嗟に距離を取ろうとする。
が、一瞬遅く、いつの間に持ち替えたのか巫剣が足に迫っていた。しかも、何か嫌なモノを纏っている。
それが右足を掠め、同時に火傷したような痛みが走る。
「──ッ!」
ジクジクと痛みがなかなか引かない。まさか……。
「フォースブースト・巫剣の力からの巫剣:霊封脚斬。…まあ、今のは巫術ではなく浄化の術を入れたけどね」
「チッ……タチの悪い…!」
エトワールがニヤリと笑みを浮かべ巫剣に触れる。彼の言う通り、剣先には清浄な光が纏っている。