京ノ宮高等学校

□暖めたい
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そんな一樹の様子は遼平の目に取り乱したように見えて、理由がわからず二人共しばし黙る。が、考えを巡らせた遼平はそのいささか天然な一樹の勘違いに気付き再び隣へ視線をやった。
まだ微かに赤い余韻を残す一樹の目元を見ていると遼平の頬は次第に緩んでいく。
次いでなんだか照れが伝染してきて思わず口元を掌で覆った。

「…なに笑ってんだよ」
「いや、うん。俺ら結婚は無理かもしんないけどね」
「……………」

遼平に自分の勘違いを悟られ、一樹は居たたまれず俯く。イタイ、イタ過ぎる…と。
近ごろは外国に行けばあるいは…と、そういう問題ではない。"愛する人"として彼を認識しているんだと言っているようなものだ。病める時も健やかなる時も。

「まぁ同じことだしね」
「…何が」
「ずっと一緒にいたい、って」
「…いっ…、…う……ん」
「いような」
「…ん」

あぁ、幸せ見つけた。
遼平は思う。

一樹の初めて見る色々な表情を特等席で見れる権利があるのだ。
しかもこんなふうに照れて俯かせているのが自分の存在なのだという高揚感。
なんてことはない登校時間がこんなにフワフワ甘ったるいものだなんて。
人目が有りすぎて手を繋ぐことも出来ない焦れったさが逆に胸を熱くする。
我慢がスパイスとはよく言ったものだ。
再び一樹の横顔を見下ろす。
目尻の辺りがまだ赤く余韻を残していた。その伏せた目蓋にベットでの彼を思い起こしてしまい、遼平は腹の奥からグラッと沸き上がるものを感じた。

「ツキ、教室行く前に…部室寄ってい?ちょっと忘れ物思い出した」
「ん、いいよ」

甘い雰囲気から普段通りの会話に戻ったからか、顔を上げた一樹は元通り"友達"の顔になった。

けれど、と思う。

人目が邪魔なら無い場所に行けば良い。そしてこの焦れる熱を一樹に受け止めてもらおう。
遼平は内心に抱えた獰猛な欲を宥めながら努めて平静を装ったが、歩調は次第に早まっていく。

「遼平?走んの?」
「うん、そうしよ!」
「えっ、おい!待てって」
「ツキ早く早く!」










=====





「はぁぁぁあああぁぁ〜〜…」
「でっけぇ溜め息だな、オイ」

選択科目の移動中、1年の校舎にある男子トイレの鏡の前で。サワタは盛大な溜め息をついた。
それに突っ込みを入れたのは同じクラスの逢坂勝太(オウサカ ショウタ)、あだ名は誰が呼んだか不明な"ウィンタ"。
少々変わり者の彼は癖の強い黒髪を短めに切り揃え、黒縁眼鏡をかけていた。身長は高く180に届きそうな遼平くらいあるのにも関わらず所属している部活は天文学部に園芸部と部員すらいるのかどうか怪しいジャンル。

「お前フラれたんだっけ?」
「うるせぃっ、フラれたとか決めつけんな」
「違うんか」
「フラれたわ!」
「やっぱそうじゃん」

勝太は呆れ半分で言うと先立ってトイレを出た。サワタも後に続く。

「んで?落ち込んでんのか」
「フラれたぐれぇで落ち込むかよ」
「いや少しは落ち込めよ。好きで付き合ってたんだろが。お前そういう態度が相手に伝わるんじゃねぇの」
「保塚みたいなこと言いやがる…ウィンタのくせにぃ〜〜〜!」
「保塚?」

二人で廊下を歩きながら話しているとすれ違う数人が勝太を振り返る。つい最近まで中学生だった1年生達にとって勝太の身長は目をひいた。加えて17歳にしては落ち着きすぎている雰囲気。

「あいつ近頃妙に浮かれてんよな」
「そう!それだ!」
「は?」
「アンニャロ彼女出来たっつーのに隠すんだ!」
「…そんな気になることか?」
「気になる。高校入ってから俺が知ってるだけで3人に告られてるはずだ。モテメンマジむかつく」
「まぁモテそうなタイプだよな」

勝太はあまり親しくないクラスメイトを思い浮かべた。
スラリとした長身、バランスよく引き締まった体つき、派手さはないが整った顔立ち、嫌味のない爽やかなスポーツマン。なんとも隙のないタイプだ。
そしてそんな彼の側にいるのは同じサッカー部のサワタではなく、何故か真中一樹。

「誰とも付き合わねーなー、と思ってたら最近いきなりだろ。しかも中学からずっと片想いしてた相手らしいし」
「良かったじゃん、報われて」
「だから気になんだろ、どんな子か。むっちゃカワイーんじゃね?」
「そっとしとけよ。その子だって嫌だろ見せ物じゃねぇし」
「ちょっとぐらいいいだろ」
「あのな…年単位で片想いしてやっと付き合ったんだろ。今幸せ絶頂のはずだ。お前ごときにやたら騒がれーーー…」

ドンッ!!

サワタに意見するのに注意が向いていた勝太の胸辺りに衝撃があった。



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