京ノ宮高等学校

□よい週末を(R18)
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客のいない店内は静まり返っている。
一樹は遼平から手を放すとその後ろ姿を見やった。日に焼けた髪は少し茶色くなって傷んでいた。

「遼平…?」

まるで電池が切れたように動かなくなった恋人の名前を呼んでみる。ややあって、ゆっくりと振り返ったその目はうっすら涙が滲んでいた。

「……お前な…泣くほどのことか?」
「ことだよ!!俺が今日をどんだけ楽しみにしてたか!」
「し、仕方ないだろ」

あまりにもガッツリ肯定されて一樹はその勢いに面食らう。そもそも一樹にしてみたら今日を"そういう日"にするつもりも予定も無かった。
ガッカリ感など皆無。
むしろ環が急遽出かける予定をご破算にしてくれてホッとしている自分がいる。

「別に今日必ず、とか…いいじゃん。また日を改めてさ」
「……いつ」
「え?」
「日を改めてっていつならいい」
「それは〜…」
「ツキ逃げるだろ」

ギク

「あからさまにビビってるし」

思いきり図星だった。
正直もう遼平の家に気軽な気持ちでは来られないかもしれない。

「…したくないの?」
「え…」
「俺とエッチなこと、ツキはしたくない?」

問われてハッとした。
近頃あまりにも元通りの関係になったことに快適さと嬉しさを感じて、その居心地の良さに甘んじていた。
自分達は"恋人同士"なのだ。
キスの先に何があるかぐらい知っている。
途端に一樹の頬がカァッと朱に染まった。

「…と、とにかく今日は環さんいるしダメだろ。飯…、飯食おうぜ。腹減った」
「……コーヒーいれるよ」

不自然に話題を逸らすも遼平は特に突っ込んではこなかった。
カウンターの中へ入るとフィルターにコーヒーをセットし始める。一樹はその意外に器用に動く彼の指先を見つめながら胸の動悸を落ち着かせた。

(ヤベェ…気まずい。でも帰るとかはやっぱりナシだよな…どうしよう)

少なくとも夕方近くまで一緒に過ごさなくてはならない。
あの日、水場で遼平は熱っぽいキスを仕掛けてきた。今日は彼の部屋というテリトリー内で同じように迫られたら、自分は簡単に流されてしまいそうで一樹は不安になる。

(流されてするのは…違う、よな…)












=====







「サワタんとこ、まだケンカしてんだって」
「マジ?長いなぁ」
「とりあえず謝れっつってんのに、"理由もなしに謝れるか"って」
「ケンカの原因って何?」
「忘れたらしい」
「…アホだな」

意外と普通に会話出来ている。

昼食を済ませた二人は遼平の部屋にいた。遼平はベットに腰かけサッカー雑誌を眺めている。一樹はCDを手に取りどれを貸してもらおうか選んでいる。
少し微妙な距離を取りながら。

「サワタって次々付き合うけど長続きしないな」
「来るもの拒まずだから、ちゃんと好きになってねぇんだよ。ところでさ、ツキ」
「ん?」
「この白々しい会話まだ続けて欲しい?」
「………」

背中に遼平の視線が痛いほど突き刺さってくる。どう転んでも居心地の悪さは同じなのか、とCDを置いた。

「俺焦りすぎかな」

遼平がポツリと呟く。

「ずっとツキのこと好きで、本当に…半分ぐらい諦めてたのに受け入れてもらえてさ。すげぇ嬉しくて、毎日触りたくてキスしたくて」

ギシ…とベットが微かに軋む音がした。次いで、背後に遼平の気配を感じる。

「ツキは?俺に対してそんなふうに思わない?」

遼平は真剣だった。
正座して筋肉質な自分の太ももを掴む。今日家に誘った真意を悟ってからの一樹は明らかに怯えが見えて、それは少なからず遼平を落胆させた。

「…だって…急過ぎ」
「急?」
「お前は前からそういう気持ちだったからいいけど、俺は最近だし。…その…好きって思い始めたのが」

つっかえながら、それでも一樹は言葉を紡ぐ。対面で顔を見られてないのが救いだった。そのぐらい気持ちを声に出すというのは恥ずかしい。
何故遼平はストレートに表現出来るのか不思議だった。

「俺は、もう少しちゃんとっていうか…エッチとかいずれすんだから、そういうの急ぐよりも…なんつーか…キス、とか。まだ2回ぐらい…しか、してないし」

そろそろ恥ずかしさに耐えられない。何か言ってくれ遼平、と念じた瞬間後ろからそっと抱き締められた。

「…遼平」
「ツキ、かわいい」
「かっ!?」

真面目に気持ちを伝えたのに"かわいい"とは何事だと一樹は心外だったが、抗議する言葉は出なかった。
紅潮した頬に遼平の唇が触れたから。

「ちゃんと俺のこと好きでいてくれて嬉しい。…ありがとう」
「……おう」

わざとぶっきらぼうな返事をして一樹はうつ向いた。…が、遼平はそれを許すつもりはないらしい。
顎を持って恋人の赤い顔を上向かせた。

「3回目のキス、しよ」

言うと一樹はグッと目を閉じた。遼平は愛しさに緩む口元を恋人と重ねる。



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