京ノ宮高等学校

□焦れったいけどちょうど良い
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「と…くべつなんじゃね?」

シマッタ。
つっかえんなよ俺。

だけどサワタも遼平も俺の動揺なんてどうでもいいらしく、何かしら会話を始める。
ちなみに肩は抱かれたまんまだ。
中学の頃に比べて遼平は身長が伸びていた。当時は同じぐらいだったのに、今は目線が少し上。

……もし、万が一、有り得ないことだが、仮に俺とこいつが付き合うことになったとして。
ソウイウ時になった場合ってさ、やっぱり体格的に考えて俺が…なんてーか女の子…?

「だよなー、一樹?」
「エ!!?」

サワタの突然な同意に思いっきり声が出てしまった。しかも裏返っています。

「いや…うちの担任って横から見るとキリンに似てね?て話」
「あ、あぁ…そうかもね」

めっちゃクダラネー話してたんだな…
熱心に自分の主張を語るサワタの表情はいつもと何ら変わりない。
さっきからもしかして俺の心の声がだだもれてんのかと疑ったが、思い過ごしもいいとこだ。
ふと遼平を見上げると思い切り目が合う。

「顔赤いぞ」
「…暑ぃんだよ。腕どけろ」

さっきの勝手な想像のせいでこいつの体温が急に生々しくなり少し荒く振り払ってしまう。
意味不明な八つ当たりだ。最悪。
だけど遼平は特に何も言わないまま、サワタの相変わらずな話題に適当に付き合っている。

こっそりと、その横顔を見る。

ずいぶん"男"になったなと気付く。
顔つきも体つきも柔らかさがどんどん減っているのが制服の上からでもわかった。
それは俺も同じなはずだ。
ちょっと身長差があるだけで。

遼平は当時に比べてそれなりにゴツくなっている俺を今も変わらず好きでいるんだろうか?
そういう意味で、本当に?








=====




今朝、サワタがキリンに似ていると主張していた先生の横顔を観察してみる。適当に生徒を指名して教科書を読ませる間、机の脇を通り抜けていく。

結論、キリンというよりラクダかな。

正直どうでもいい。
大変どうでもいいわ。


斜め前の席に座るツキの背中を見る。
眠っている様子もなく特に悪さをしてるでもなく、ほとんど動かない。
結構真面目な奴。


ツキと親しくなったきっかけは単なる席順だ。"保塚"と"真中"。
思えば中学からずっと同じクラスだ。
他人は腐れ縁と言ってしまうが俺にしてみれば「運命」と言いたい。
そんな乙女チックな発想になってしまうのは、恋愛感情からだ。

もちろん、ツキに対する。

昔から女の子よりも男にそういう衝動を強く感じるのは自覚していた。
初めてツキと会った時に惹かれたのは単純に顔だった。

決して女っぽい顔立ちではない。
だけど優しげな雰囲気で整っていて、ずっと見ていても飽きない。
側にいてくれるだけでいい。穏やかな気分を与えてくれる初めての相手だった。

見た目が好み。

それだけだったらこんな長いこと想い続けることはない。
すごく些細なきっかけだ。


"なぁー、遼平"
"ん?"
"知ってる?うちのクラスの野崎と4組の後藤さん付き合ってんだってよ"
"あぁ、そうなん。最近そういうの増えてきたな"
"遼平は?"
"俺?が何?"
"彼女とか作んねーの?"
"簡単に言うなよ"
"そっか?俺なら野崎よりもお前だけどなぁ"
"…は?"
"あ、キモいな。ごめんごめん"
"いや、そうじゃなくて…なんでそう思う?"
"大事にしてくれそうだなって"






すげー大事にするよ、ホント。

うぬぬぬ…と意味なく拳を握りしめて力んでみても意中の相手は側にいない。
バカバカしくなって、ふぅと力を抜く。

ツキにしてみればなんのことはない発言だったんだろうけど、当時の俺はそんな一言で一発KOだった。
恋愛のきっかけなんて些細なもんで充分だ。相手を意識し始めたらもう止まらない、止まれない。

元々好みだった顔はさらに魅力的に見えて、よく見ると長いツキの睫毛が伏す様に欲情するようになった。
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