京ノ宮高等学校

□焦れったいけどちょうど良い
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2年に進級して何か変わったことがあるかと考えると、特に何もなくて。

今日も同じ制服、同じ朝番組、同じ玄関(当たり前か)、同じ通学路。

不満があるわけじゃない。
学校は好きだ。
勉強は好きじゃないけど。
喋るといい感じにアホなクラスメイト達は好きだ。
約1名とはいい感じとも悪い感じとも言えない距離感があるけど。

「おっはよーん、一樹」
「はよ、サワタ」

登校途中、大体いつもと同じタイミングで合流するのも変わらない日常。
いい感じにアホなクラスメイトその1、沢渡圭司(サワタリ ケイジ)。アダ名はサワタ。だが本人的にこのアダ名は納得がいかないらしく。

「サワタ、までいっといて「リ」を省略する意味わかんね」
「んじゃサワって呼ぼうか?」
「女子サッカー代表と被んだろーが」
「お前サッカー部だし、いんじゃね。向こうは世界の人だし」
「んな重いアダ名背負いたくないわ。どうせなら「サワやかな圭司クン」を略してサワケイで」
「テニスの方と似てて紛らわしい」
「そっちも世界か…案外世界って狭くね?」
「アダ名ごときで世界まで行くなよ」

俺らの話題は大体中身がない。
だけどそれでいい。
難しいことで頭使うのはテストだけで間に合ってますから。

「おはよ」

今朝もやっぱり同じタイミングの頃合いで合流してきたのはーー

「はよー」
「…おはよ」

いい感じとも悪い感じとも言えない距離感がある相手。
俺の脳みそを小難しくしている原因。
人懐こいサワタが早速話しかける。

「そうだ保塚、リーダーの予習してきた?」
「一応やった。見せねぇぞ」
「まだ何も言ってねーし」
「なんだ、珍しくやってきたんか?」
「やってきてたら聞かない」
「なんだそりゃ」

1年の時に俺に好きだっつーてきた男、保塚遼平(ホヅカ リョウヘイ)。
かれこれ中学からの付き合いだ。
もちろん友達として。

「ツキ」
「ん?」

遼平は俺を「ツキ」と呼ぶ。
「いつき」だからだ。
サワタじゃないけど「い」を省略する意味がちょっとわからない。

「なぁなぁ、なんで「い」省略すんの?」

まるで心を読んだようなタイミングでサワタが突っ込んできた。
止めてくれ、ドキーッとする。

「いいだろ。特別っぽくて」

サワタに答えながら遼平が俺の肩に腕を回す。
なんてことはない。よくあるありふれたスキンシップだ。
わざとらしく意味深な言い方すんのも必要以上に抱き寄せてみせるのも、周りにはふざけてるポーズっぽく思えるはず………だろ?

だがしかし。

俺と遼平だけは本当に意味深だってわかってる。
本当に二人だけの秘密があるから。
そしてこいつは分かっててこういう態度をとるんだ。

「なぁ?ツキ。俺ら特別だろ」

1年前の告白はまだ続いてるって思い知らせるみたいに。
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