京ノ宮高等学校

□よい週末を(R18)
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「ツキ、明日家来るよな?」



部活終わりの玄関は主に運動部の生徒達で賑わう。
たいていの場合は一樹が先に来ていて遼平を待っていた。サワタも参加(?)したがってゴネたが、彼女と仲良くしろの一点張りで今のところ逃げている。

「うん。明日の昼頃でい?」
「オッケオッケ。環に飯作ってもらお」

"環"とは遼平の8歳上の姉だ。一樹は中学の頃から何度か遼平の家に遊びに行っているため顔見知りである。

「環さん作るんだ?珍しいな」
「明日彼氏と遊びに行くっつーて、弁当作るからついでに」
「へぇ、意外に家庭的」

遼平の両親は喫茶店を経営していた。
先々代から続く店で、コーヒーの香りと木目のインテリアで統一された雰囲気は年月による重厚な味わいを醸し出す。

「なんか持ってくもんある?DVDとか」
「いや、特には」

恋人宣言のちの付き合って早3週間が過ぎようとしていた。
こうして一緒の下校を始めてみてもこの二人、さほどの進展はしていない。友達である期間が長く、気楽さからなかなか色っぽい空気になれないというのが原因だ。
友達に戻るだなんだのとすったもんだしたわりに、今この現状が最も正しい"友達状態"である。

「んじゃ明日な」
「おう」



チュッ



…などとならない。
二人は普通に手を上げて道を分かれる。
遼平はこの状態に不満だった。

(ふふふ…明日…)

企みに口元を歪ませる。
付き合って3週間にも満たないのに不埒な考えを持つのが早すぎる、とは思わない。
何せ既に4年間友達をやっている。
ええ加減にしなさい、と言ってやりたいくらいなのだ。
なにより多感な高校生。
今まではせいぜい夢に見れたらしばらく"不自由"しなかった一樹のあんな姿やこんな姿を、現実に目の当たりにする権利がある。
その期待に胸も別なところも膨らむというものだ。

(部屋掃除しとこっと)

1日みっしり部活と授業に精を出したというのに遼平の足取りは軽やかに弾んでいた。











=====






「さっさと出かけろよ、クソ姉貴」
「アタシの勝手でしょうが、クソ弟」

面差しの似た男女が額を擦り合わせんばかりに至近距離で睨み合う。
遼平は青いストライプシャツの袖を捲った。日に焼けた腕が表れる。

「なにアンタ、やろうっての?」

フッと不敵に鼻で笑う環は余裕しゃくしゃくだ。それもそのはず。彼女は幼少の頃から空手を習っている。
握りしめた拳は非常に……男らしい。

「彼氏と呑気にケンカとかしてんじゃねぇよ。大人だろ、とっとと謝れ。そんで出かけろ」
「ガキにはわかんない事情があんのよ。口出すんじゃないよ」

二人とも歯をギシギシ噛み合わせてその隙間から低い声で互いを威嚇し合う。
そんな仲睦まじい(?)保塚姉弟の様子を一樹はカウンター越しに眺めた。
3人は遼平の両親が営む喫茶店の中にいた。

一樹が遊びに来た時、店には"close"の札がかかっていた。聞けば保塚夫妻は懸賞で当たった熱海1泊旅行に朝早く出かけて行ったらしく。

ちょっと待て、環さんも出かけるんじゃなかったか?

その事に行き当たった瞬間、遼平が腰を抱いてきた。そして満面の笑みを向けてきた。
その笑顔に一樹は身の危険をガチガチに感じて、今すぐ腹痛でも起こして速攻帰りたいと本気で思った。

……のが、つい数分前の出来事である。


「私が家にいたら都合悪いことでもあるわけ?」
「それこそお前が口出すことじゃねぇだろ」
「どーせっ。エッチなDVDでも見るんでしょ」
「違ぇよ!」

実際はDVDなどという媒体ではなく、実践なのだが。
そんな考えに至らない環はハイハイ、と犬でも払うように手を振った。

「アンタはどうでもいいけど一樹君に変なこと教えんじゃないわよ」
「変なことかどうかヤってみな…モガッ!?」

咄嗟に一樹は遼平の口を覆った。明らかに"変なこと"を口走りそうな気配がしたから。

「環さん昼飯ありがとう。俺らのことは気にしないでね」
「一樹君もね、ゆっくりしてって。このバカがバカなことしたら直ぐにチクってきなさいね」

環はにこやかに一樹へ言うと一転して遼平にはチンピラ顔負けのガンを飛ばして自室へ引き上げていった。
彼女は自分達が付き合っていると知らないはずだが、微妙な釘の刺され方にドギマギしてしまう。


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