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全員の視線がテープレコーダーへと向けられていた。だけど誰も喋ろうとしないのは皆思う所があるんだろうね。
持ってきたのが副会長なだけに何かあるのは間違いないだろうし。あの人が何の意味もなく動いたりするわけがない。
「なんだよそれ!その中に何か入ってんのか?!」
空気を読まずにいや、読めないのか。大きな声を出したのは勿論相川。こいつ自分の置かれてる状況忘れてない?あ、それとも皆の意識をテープレコーダーへと持っていくことで話逸らそうとしてるとか?
誰も動こうとしないことに焦れたのか手を伸ばし勝手にテープレコーダーを奪おうとする相川。その手を会長はひょいっと避けた。そのことが不満だったのか相川はさらに大きな声をあげる。
「なんで避けるんだよ!!」
「…これどう思う?」
そして完全スルー。そんな会長の様子を見て今まで微妙な顔でテープレコーダーを見つめていたはずの会計がケラケラと笑った。
「隣でそんだけ大声出されても無視出来るってかいちょー神経図太すぎでしょー。」
「七瀬、どう思う?」
「ちょっと、何で俺まで無視するの?!」
うわーんと会計は泣き真似をする。書記は考え込むような顔をした後ぽつりと呟いた。
「…聞けば…わかる、言ってた。」
まぁ確かにそうなんだけどね。なんだかなぁ…。やっぱりいい予感がしない。
「…このまま放置するわけにもいきませんし聞いてみましょうか。」
仕方なくそう言えば会長もようやく腹を括ったのかテープレコーダーの電源を入れた。
ガッ…ガガッ…
『……っ……だよ!……だ…て。』
人の声…?かすかに聞こえるその音に俺達は耳を済ませた。
「会長、音量あげて下さい。」
「あぁ。」
会長の手によって上げられた音量のおかげではっきりとその音が聞こえるようになる。聞こえてきたのは…
『……近付けないように…してくれれば…!んあっ…あっ…』
相川の声…?情事の最中のような音もかすかに聞こえ皆一様に眉を潜める。
「な、なんだよこれ!」
こんなものが入っているとは予想外だったのか相川は顔を真っ赤にしてテープレコーダーの電源を落とそうとした。俺は咄嗟にその手を掴みそれを阻む。…これは何かありそう。
『…あいつの親衛隊ならこの間潰してやっただろうが。』
……っ!その声に生徒会室の空気が変わる。聞こえてきたその声は相川のものでも副会長のものでもなかった。
「……風宮はもうこの学園に居ないはずだろ。」
風宮修二。俺もその人のことはよく知っている。三年前この学園で風紀委員長をしていた人物で相川信者だった一人。風紀委員長を降ろされたことは聞いていたけど、居ないってどういうことだろう。
「…彼は結構前に退学になった生徒だよ。」
そう教えてくれたのは会計だった。確かにこの学園に戻ってきてから見てないなとは思ってたけど…退学にまでなってたんだ。結構前…ってことはこのテープレコーダーも何年か前に録られたものの可能性が高い。
なんで副会長がそんなものを持っているのだとか今更ここに出してきた理由だとかいくつかの疑問はあるけど…。
まさか風宮委員長と相川との間に身体の関係があったなんて。
『潰すだけじゃ…だめ、なんだ!…だって…んっ!まだ…ちょこまかと…邪魔なんだよ…っあいつ…ら…んんっ』
『仕方ねぇな。わかったから今はこっちに集中しろよ。』
委員長のその言葉の後に聞こえてくるのは生々しい水音と相川の喘ぎ声。
「…会長、これ巻き戻してみてくれませんか?」
最初のよく聞き取れなかった部分が気になって俺はそう告げた。
「やめろよっ!!」
憤って俺の方へと殴りかかってきた相川を書記が抑え込む。
会長は横目で相川を一瞥した後テープレコーダーを操作し始めた。
「おい、そいつは別の部屋へ連れてけ。ここで騒がれても迷惑だ。」
「……わかった。」
書記が相川を連れて外へと出て行く。相川は会長の言葉がショックだったのか顔を青くしていた。
「涼夜っ!違うんだよ!!俺は修二と寝てなんか…っ!」
ーー…バタンッ
扉が閉まると同時に聞こえなくなる相川の声。室内が静かになったことを確認し会長は巻き戻されたテープレコーダーの再生ボタンを押した。
『…野中だよ!…後、南城とか…嶋田とか…いうやつも!んっ…お願い。…なんとか消してよ…あいつら邪魔なんだって!要は…消さなくていいけど…近付けないように…してくれれば…!んあっ…あっ…』
「久遠…?どうしたの、大丈夫?」
心配そうな表情で俺の顔を覗き込んできた会計にハッとする。そこで初めて自分が血が滲む程に拳を握っていたことに気付いた。
野中に南城に嶋田…。どの名前にも聞き覚えがあった。そしてその後に出てきた要の名前…。間違えない。全員俺の親衛隊だった人達だ…。
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