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side会長


目の前の光景に頭に血がのぼる。

沙織を殴り飛ばしたい衝動に駆られたが倒れ込む久遠を見て咄嗟に手を伸ばした。

絶対掴んでみせる…!

「おぉ、ナイスキャッチ。良かったよこの子は怪我しなくて。…本当に助けたかった子の時は間に合わなかったみたいだけどね。」

「沙織てめぇっ!」

よくもそんなことがぬけ抜けと言える。自分の恋人を階段から突き落とした張本人が。

「てめぇがそうして笑ってられんのも今のうちだけだ。自分の犯した罪を必ず償わせてやる。」

睨みつければわざとらしく肩を竦められた。

「そんな怒んないでよ。言っておくけど俺だって本当はこんな予定じゃなかったんだ。それに追い込んだって言う意味では君も同罪でしょ。それにしても…気に入ったの?その子。」

冷たい目で久遠を見つめる沙織。抱えたその身体をさっと隠す。

「…そんなんじゃねぇよ。」

そんなんじゃない。ただこいつの淹れたコーヒーを飲んでから何かがおかしい。程よい甘さに調節されたそれはひどく懐かしい味がした。

「まぁどうでもいいけど。あの子のこと想う人間が減るのは嬉しいし。もうさーこのまま忘れちゃってよ。」

そう言ってふふと笑うと沙織は生徒会室から出て行った。……誰が忘れるか。

沙織…俺からあいつを奪ったお前が憎くてたまらない。

そしてくだらない嫉妬心であいつを傷付けた自分自信も。





本当はずっと好きだった。多分出会ったその瞬間から俺は恋に落ちていたのだ。

誰よりも大切にしたかったはずなのに。

初めてあいつを見たのは初等部の時だった。




「女男とは遊ばないもーん!」

「お前ドッジボールよりお人形さんごっことかの方が似合うぜ?一人でやってればー?」

「あははは!そうだよ!女男はドッジ禁止〜!」

そんな声が聞こえてきたのは一人中庭で本を読んでいた時だった。本から目を離し声のした方に近づけばそこに居たのは何人かの同級生達。

あいつらまた誰かいじめてんのかよ。良家の子息のくせしてかっこ悪い。俺は絡まれたことないけどこういうのって気分悪いんだよ。

囲まれてるのは小さなやつ。顔はよく見えないけど見た感じ下級生だろうな。上級生に囲まれて泣きそうになってるのかも。助けてやんないと。

「ふーん君達その女男に負けるのがこわいんだ?ならしょうがないね、ここは僕が大人になってあげる。」

凛とした口調でそう言ったそいつは全然泣きそうなんかじゃなかった。それどころか楽しそうに笑っている。変な奴だな。上級生が怖くないのか?

「なっ!負けるわけねぇし!お前許さないぞ!」

顔を真っ赤にした相手の生徒がそいつに掴みかかろうとしたのを見て前に出る。

「お前ら下級生相手に何してんだよ。ダサいことしてんな。」

「な…東堂!?おい、やばいって。」

「別に俺たち何もしてねぇよ。な?!」

「そ、そうだよ。行こ!」

俺の顔を見た途端顔を青ざめさせて逃げてったやつら。別にいいけど。こういうの慣れてるし。東堂ってだけで皆腫れ物を触るかのような扱いになる。

振り返るとそこには驚いた表情で俺を見つめるそいつが居た。

きめ細かい真っ白な肌にぱっちりとした大きな目。俺を見上げるそいつはそこら辺にいる女よりも女らしかった。

「あの…ありがとうございました。では!」

「え?お、おい!」

そう言ってすぐさま立ち去ろうとする相手の腕を咄嗟に掴んだ。あれ、なにやってんだろ俺。でももう少し話がしてみたいと思ったんだ。

さて引き止めたはいいけど何て言おうか。そこで初めて気付いた。そいつが震えていることに。


「ふ…ふぇ…っ誰が女男だこんちくしょーーーーーーっ!!悔しい悔しい…うわーーんっ!」

「えぇ?!お、おい…」

突然大泣きしだしたそいつに慌てる。このタイミングで泣くのかよ!



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