main
□6
1ページ/24ページ
「ほら、そろそろ離れて下さいねー?」
「やだ。」
生徒会室に向かっているというのに、ぎゅうと腕に力を込め俺の後ろにくっつく書記。といっても相手の方が背が高い訳だから自然と俺が抱えられてるような格好になる。
随分懐かれたものだと思うよ。でもこんなとこ会計に見られたら面倒なことになりそうだなぁ。やっぱり生徒会室につく前になんとしてでも離れてもらうしかない。
「俺こういうスキンシップ実はあんまり得意じゃなくて…七瀬?」
書記さんは嫌だと言われたため早速名前で呼んでみた。首だけで軽く振り返れば動きをピタリと止め不思議そうな顔をしている書記に気付く。どうしたんだろう。
「久遠って…香水とか、つけてる?…この匂い…知ってる。」
犬か。ていうか俺って変な匂いするの?別に香水付けてないし。クンクンと自分の匂いを嗅ごうとすれば書記は首を振った。
「違う。臭いとかじゃない。そうじゃなくて…この匂いは…」
「久遠と七瀬…?なんで君達が一緒に居るわけ?」
俺達の会話を遮ったのは突然聞こえてきた第三者の声。声のした方を向けばそこには副会長が無表情で立っていた。
「まぁどうでもいいけど。」
自分から声をかけてきたくせにすぐに興味を失ったらしい。副会長は俺達の脇を通り過ぎていく。あれ…?何かいつもと様子違うかも。どうしたんだろう。
取り繕ったような敬語じゃないしあの時みたいに絡んでくるわけでもない。
「副会長…なんか…変。」
ぽつりと洩らした書記の言葉に俺も頷く。そういえばこの間部屋に連れ込まれた時も最後の方はなんかおかしかったような気がする。
あれ、ていうか副会長が向かった方にあるのって…
「生徒会室…?」
まさか。急に仕事する気になったとも考えにくいし。書記の方を見ればちょうど向こうもこちらを見ていたためばっちりと目が合う。
「俺達も行きますよ。」
「ん!」
書記の無罪も晴らさないといけないし。さっきまで泣いてたくせに急に元気に返事した書記がおかしくて俺は笑った。
「沙織は俺に会いに来たんだろ?!」
防音なはずなのに部屋の外からでも聞こえるその大きな声にゲンナリとする。
でも相川の言葉からして中に副会長が居ることは間違えなさそうかも。ゆっくりとその戸を開ければ副会長に抱きつく相川が真っ先に目に入った。
「何しにきた?」
一瞬自分がそう言われたのかと思いドキリとした。だけど会長は真っ直ぐに副会長を睨み付けていてすぐに副会長に対しての言葉だったのだと気付く。
戸を開けたまま入っていいものかと迷っていると俺達に気付いた会計がおかえり〜と声をかけて来た。
それにより会長もこちらへと視線を移す。
「早かったな。それで…書記は本当のこと喋ったのか?」
「話は聞けました。」
そう返事をしながらも今だ副会長に抱きついたままの相川に軽蔑の視線を送る。
何もしてない書記に責任全部押し付けようとするなんて君はどこまでもひどい子だね。まぁ本当は俺を嵌めたかったんだろうけど。
すると俺の視線から自分の吐いた嘘がバレていると悟ったのか顔を覗かせた相川は悔しそうに顔を歪めた。
「なんでだよっ…!悪いのは全部お前なのに…」
「ねぇいい加減離れてくれない?」
相川の言葉を遮りそう言ったのは副会長。その目はさっき俺達とすれ違った時とは比べものにならない程に冷たくて。それを見た相川の目にじわじわと涙が溜まる。
「沙織まで…どうしたっていうんだよ!」
うん、本当にどうしたんだろうねこの変わり様。驚くのも無理はないと思う。だって俺だってびっくりしてるし。あんなに相川にベッタリだった人が普通こんな風になるだろうか。
副会長は相川が泣いても特に気にした様子はなくポケットからスッと何かを取り出しそれを会長へと差し出した。テープレコーダー…?なんでそんなもの…。
「なんのつもりだ。」
会長も怪訝そうな顔でそれを見ている。
「さぁ?聞けばわかるんじゃない?」
副会長は面倒くさそうにそれだけ言うともう用はないとばかりに生徒会室を出て行ってしまった。
彼がここを出る直前、一瞬こちらを見たような気がして。いや、さすがに考えすぎかな。
.