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「何故あなたがここに居るんです?」

こちらをジッと見つめるその目に背筋が凍るような思いをした。

それは多分、この人の本質を知ってしまっているからだと思う。

西園寺沙織。俺が初めて愛した人。そして俺をひどく傷付けた人…。



今日も生徒会の仕事の手伝いをするため俺は生徒会室に来ていた。

しかしそこに会長の姿はなく、代わりに置いてあったのは一枚のメモ。

『風紀に書類を提出してくる。』

綺麗な文字でそう書かれた紙を手に取り、俺は小さくため息をついた。

そういう仕事こそ俺に任せるべきだと思うよ会長。これでも風紀委員なんだから。

まぁあの人がわざわざメモを置いてったことはかなり意外だったけど。だってこれ俺に向けたメッセージだよね?

信用してない相手だけど存在は認めてくれてるってことなのかな。

俺はそのメモをポケットにしまうと会長の机においてある書類をパラパラとめくってみることにした。

そこには会長だけでなく副会長や会計、書記の分だと思われるものも混ざっている。一人でこの量の仕事しようなんてかなり無理がある気がする。

相川が転校して来る前、基本的に俺は風紀でデスクワーク専門だった。似たような書類なら何度も処理したことがあるし、書類整理の速さにも結構自信がある。

手伝えそうなんだよなぁ。まぁ会長が仕事まわしてくれないんだからしょうがないけど。

あそこまで心を閉ざした人の信頼を得るにはどうしたらいいんだろう…。一人より二人でやった方が絶対上手くいくのに。

そんなことを考えていると後ろでドアが開く音がした。

てっきり会長が戻ってきたものだと思って俺は、早かったですね。なんて声かけちゃったんだけど…

そこに居たのは、会長ではなく副会長だった。

「何故あなたがここに居るんです?」

こうして今に至っている訳なんだけど…なんて答えよう。

変に隠そうとしてもきっと余計に怪しまれるだけだろうな。

「風紀として会長に用があって来たんですけど、どうやら留守のようですね。副会長こそ何故ここに?」

一応嘘は言ってないよ。風紀として会長の手伝いしてるのは本当だし。にこっと微笑めば盛大に舌打ちされた。

「君はおかしなこと言いますね。生徒会の一員であり副会長でもある俺が、ここに来ることに何かおかしな点でも?」

「すいません、風紀の用で何度かここに来ましたが副会長が仕事をしている様子はなかったので。初めていらしたのを見て驚いてしまったんです。」

遠回しに仕事サボってるくせに何の用があって来たんだと嫌味を言う。

勿論頭のいい彼にはそれが伝わったらしい。スッと目を細めた副会長がイラついていることがわかった。

「あぁでしたらそれは会長のせいですね。彼がセフレを連れ込むので、極力ここでは仕事をしないようにしているんですよ。」

よくもまぁ平気な顔でこんなウソがつけるね。相川が来る前はこんな人を貶めるような嘘をつくような人じゃなかったのに。でもまぁ人間の本質なんてそうそう変わるものじゃない。もともと綺麗に化けの皮を被ってただけってことだろうね。

「その言葉を信じる人間がこの学園に何人居るでしょうね?相川柚希君にベッタリなあなた方と今にも倒れそうな会長。ちょっと考えれば分かることです。なんでも自分の思い通りになると思わない方がいいですよ。」

笑みを消して相手を睨む。三年前、俺は確かに彼を愛していた。だけど今は目の前の相手が憎くてたまらない。

さぁそろそろ本性晒せよ。俺はもうお前の思い通りになるつもりはないからね。

「よく喋る口だね。別にそれはいいけど、この俺相手にちょっと言葉がすぎるかな。俺がなんでも思い通りになると思ってるって?もう一回言ってみなよ、二度とその口聞けないようにしてあげる。」

口許は楽しそうに笑みを浮かべながらもその目はひどく冷めていた。突然口調が変わったけど素はこっちなんだろうな。

あぁやっぱり。俺の初恋の相手は…あの優しい人は、初めから存在なんてしてなかった。

「あれ、驚かないんだ。つまらない反応。」

ゆっくりと伸ばされる手を俺はただ見つめていた。その手は俺の首に絡みつきやがて呼吸が苦しくなる。生理的な涙が出てきて視界が霞む中、副会長の目に宿る狂気のようなものを確かに感じた。

「そうだよ、思い通りになるはずだったんだ…全部。…あの子だってそう…俺だけのものになるはずだったのにっ!」

やばい、苦しい…。



「おい!何をしているっ!!」

遠くで会長の声が聞こえた気がして俺の意識はそこで途絶えた。


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