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side副会長



「最近付き合い始めた椎名遥です。可愛いでしょう?」

生徒会室に着くなり俺は涼夜にそう告げた。

先に釘を刺してしまえばいいと思った。例えもしも遥が気持ちを告げるようなことがあったとしても、これで涼夜がそれに応えるようなことはなくなる。

ごめんね遥。俺は君の想いを応援出来る程出来た人間じゃない。

確かに俺達は愛し合ってるわけじゃないけど、恋人って関係であることは事実だから。それなら俺はその事実を利用させてもらう。

相手の幸せを願うどころか告白してフラれてしまえばいい、そしたら泣いてる君を慰めてあげるのにだなんて思ってる俺はさすがに性格が悪すぎるのかもしれない。

少しだけ自己嫌悪に陥っていればピンと背筋を伸ばして姿勢良く立つ遥がやけに大人しいことに気付く。急に生徒会室になんか連れて来られて緊張してる?借りてきた猫みたい。

……可愛いな。

思わずフッと笑えば俺達を見る涼夜の目が一瞬揺れたような気がした。

「へぇ。いいんじゃねぇの。」

……作り、笑い。涼夜の浮かべた笑顔を見てすぐに分かった。こいつは俺と違って楽しくもないのにへらへらと笑ったりするようなやつじゃない。だったらその笑顔の意味は…。

まさか…。

涼夜も遥のことが好き…?

いや、流石に考えすぎか。いくら俺が好きになったからって涼夜までもが好きになると考えるのは馬鹿げてる。

だけど…もし、もしもその予想が正しかったとしたら?遥と涼夜は両想いということになるから…邪魔しているのは俺の存在。

揉め事も面倒ごとも大嫌いだ。こんな茶番を終わりにしてしまいさえすれば全てが解決するのに。

それなのに…それが出来ないのは俺が遥のことを本気で好きになってしまったから。もう手放すことなんてできない。

「よろしくお願いします。」

そう言った遥を抱き寄せ俺はにこりと微笑んだ。

「遥、そろそろ授業が始まります。教室まで送っていきますよ。」

優しい言葉や上辺だけの笑顔でこれまで人間関係を築いて来た。俺は恋人すらも…いや、大切な人だからこそ知られるわけにはいかないんだ。

どちらかが前に進もうとしたなら俺達は終わってしまう。繋ぎとめておくにはどうしたらいい…?

…せめて、一緒に居て心地良いと思ってもらえれば。それが愛じゃなくたって、偽物でもいいから。

涼夜への想いが消えるくらいに。俺は君の理想の恋人を演じてみせるよ。

だから俺の隣から居なくなったりしないで。







その願いが叶うことはなかったけど。

結局どんなに自分を取り繕ってもそれで安心できたことなんかなかった。

『なんでお前、作り笑いなんてしてるんだよ!気持ち悪いぞ!』

やって来たのは嵐のような転校生。初対面で俺にそう言った彼を、利用してやろうなんて思ったのがそもそもの間違えだったのかもしれない。




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