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side副会長
「君は随分無茶をするんですね。」
息をあげて座り込んだその子にそう声をかける。あんな嘘に騙されるような相手だったから良かったけど。まさかこの子普段からこんなことしてるわけじゃないよな。そうだとしたらこの子も結構なバカだ。
横目にちらりと相手をみればそれに気付いたのかムッと不満気な表情を返された。
「だって…俺喧嘩してあのロリコン野郎に勝つ自信ありませんでしたし…。」
ロリコン野郎って…っ。さっきから妙に俺のツボをついてくる。
「面白い子ですね君は。しかもロリコン野郎って…ははっ」
思わず素で笑ってしまえば相手は少し困ったような顔をした。
「いや、あのそうじゃなくて…。」
なんかいいな、この子。
「お互い大変ですね。…俺もよくいい寄られるんですよ。言いよってくる相手は君の場合と少し違いますけど。」
気付いたらそんなことまで話していて。会ったばかりの他人にこんなこと話したってどうしようもないことくらいよく分かっていたはずなのに。今日はどうしてしまったんだろう。
「だったら…特定の相手を作ってしまえばいいと思います。その…恋人ってやつですね。そしたら皆さすがに諦めるだろうし…」
そう言ったその子は特に冗談を言っている様子もなくて。
恋人…ねぇ。普段の俺ならきっと愛想笑いをして上手く受け流していたと思う。
だけどその時の俺はそれも悪くないなぁなんて思った。この子が相手なら、だけど。
「奇遇ですね。今俺も同じようなことを考えていたところでした。だったら俺は君がいいです。君もそういうのにはうんざりしているんでしょう?」
調子のいいこと言ってる自覚はあるけど。
「…俺でいいんですか?」
そう言った相手に俺はお得意の笑みを向けた。
「君がいいんですよ。」
面白いし。きっと暇つぶしくらいにはなるだろう。お互い利害が一致している分、面倒なことになることもないだろうし。
「俺は西園寺沙織って言います。これからよろしくお願いしますね。」
まさか本気になるなんて思ってもみなかったんだ。
一緒に登校するようになって俺達が付き合い始めたということは周りにも少しずつ広まっていった。まぁそれも全部計算のうちだったんだけど。
狙い通り告白は減ったし、中にはそれでもいいと言ってくる者も居たけど恋人を大切にしたいからと言えば諦めてくれた。
全く…。俺に告白してくるような人達は一体俺の何を知ってるって言うんだろう。急に大人になったような顔して惚れただとか好きだとか言って。…くだらない幻想に俺を巻き込まないで欲しい。
俺と遥の関係はといえば、恋人なんてのは名ばかりで実際にはただの話し相手のようなものだった。
一緒に過ごすうちにだんだん暇つぶしなんて気持ちも薄れた。いつからか俺は遥と過ごす時間が楽しいと感じるようになっていたから。
まぁそれでもやっぱり本心を晒すことはできなかったんだけど。本当の自分を見せたらきっと嫌われると思う。
恋心を自覚したのは唐突だった。
「そういえば遥は涼夜と知り合いなんですか?」
ある日の昼休み。中庭で食事を取りながらふと以前から疑問に思ってたことを聞いてみた。生徒会の仕事のない日はこうして一緒に食事を取るのが日課だ。
初めて会った時に涼夜の名前出してたの、実はちょっと気になってたんだよね。あ、でも生徒会長だから知ってただけか。
だけど遥の反応は俺の予想していたものとは違った。
「はい。実は以前…あ、いや、やっぱりなんでもないです。」
そう言いながらもその頬は僅かに赤く染まっていて…。
え、何その反応。
「……遥…?」
妙に胸がざわつくのを感じた。まさかと思うけど…涼夜のことが好きだとか言わないよね?そういう話はしたことがないから別に好きな人が居たってなんら不思議じゃない。
だけど…。どうして俺は今、こんなにモヤモヤしているんだろう。
「遥って…好きな人とか居るんですか?」
「わぁっ!え…え?!」
真実を見極めようとずいっと相手に詰め寄れば、その頬は更に真っ赤になってしまって。
「ご…ごめんなさい…。俺…」
俺を押し退けふいっと顔を背けた遥。何で…?何に対して謝ってるの…?
その時思った。俺はこの子のことが好きだったんだ、と。認めた途端、胸にしっくりくるものがあった。
誰かを好きになったことなんて今までなかったけど。この気持ちが恋だっていうのなら…想像してたのとは全然違ったな。
もっとふわふわして暖かいものなのかと思ってた。
遥がもし涼夜のことを好きだったとしたら…俺にはそれを止める権利なんてない。元々好き同士で付き合ってるわけじゃないんだから。
だけど…。自覚した途端失恋しそうってどうなの。今まで適当なことしてきたからその罰?
「…生徒会室行こう。」
そう言って俺は遥の手を取った。
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