『まいほーむ』

□いただきます
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『始まり』



静かな森。


昨日雨が降っていたはずなのに湿っている様子はなく、適度でどこか心安らぐ空気が漂っていた。


歩く度、踏みつけた地面に血が滴る。


さっきまで激痛の走っていた体をひきずり最後の力で木に寄りかかる。


死が近いせいか、痛みすら感じなくなった己の四肢を見て、こんな状態だというのに笑みがこぼれた。


今まで人を簡単に殺してきた、ただそれが次は自分だったというだけのこと。


わかっていながらも、死にたくないと内側で何かが叫ぶ。


杖代わりにしていた武器は誰のともわからない血を纏いすぐ側に突き刺さっていた。


動物すらいないこの森で死んで、一体誰が見つけてくれるのか。


だが、戦の真っ最中とは思えないこの静かな場所での死は幸福にも思えた。


邪魔のないこの場所で、思うように死ねるのは、きっといい最後だと自分に言い聞かせる…。





空気中の水分が集まり、固まり、白い塊となって私に降り注ぐ。


白は次期に赤く染まり、すぐにその赤すら覆い隠す。


木は好きだ。


確かに温もりがあって、私を隠してくれる。


始まりは木だった。


私とあいつが出会い、別れた場所。


だから、少しだけ思っていた。


どうせ死ぬなら同じように、木を墓標にして死にたいと。


名を刻んだりはしない。


木々に身を隠し静かな最後を迎えたい。


死んだあとは木が血を吸い、私を一部にしてくれればここから結末を見ていられる。


名の雪を降らせ寄りかかった木にそんな幻想を抱き、自ら捨てた思い出に願う。


私の存在など、このまま隠しておいて欲しい。


そして、忘れられてしまえばいい。





浮かぶ橙色。



後ろを見て欲しくなくて、私を枷にして欲しくなくて、それでも手を伸ばしていたのは私だというのに…。


私なんて忘れてしまえ、私が××を枷にしたように、私を枷にはしないでくれ。





弱虫で温もりを知ってる男の子、寂しがりな心優しい女の子、独りぼっちの女の子。


何も知らない君達に教えてあげられなくてごめんなさい。


全ての罪は私にあります。


憎しみも悲しみも、全て私が持っていくから、だからどうかもう泣かないで…。





体が雪に覆われ、冷たさも感じなくなっていき、不思議な安心感と共に瞳を閉じた。





これが最後とわかっていながら、本心はただただ生を望んでいた…。





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