『天使は微笑まない』

□「イタリアと新しい地」
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私はホテルの部屋で日記を開いて溜め息をついた。


日記を読み返していると、脳裏に焼き付いているイタリアでの日々が蘇る。


結果から言うと、さんざんだった。


最初は観光をして楽しんでいたが、途中絡んできた相手がいてそいつはギャングだった。


そうと知らずに日本でやったことと同じことをしたら、見事にその地域を縄張りにしていたギャングに目をつけられてしまったのだ。


だがその時の私はそれを吉として向こうからやってきたギャングを捕まえ情報を集めていた。


普段弱気だがやる時は手段を選ばなかった私。


多分その時の私は少しハイってやつだったんだと思う…。


次から次へとやってくるギャングをちぎっては投げちぎっては投げ…、繰り返せば情報も敵もどんどん集まってきた。


得た情報は裏の大物を次から次へと手駒にしているDIOという男がいるという事。


その手駒にされた大物の一人がシンガポールにいるという事。


そしてもう一つ、高熱以来現れるようになった私の後ろの幽霊についてだ。


これはスタンド、…詳しくは暗記できていないけど、精神体?らしい。


確かに鎧を着て肌が白いから幽霊っぽくないなとは思ったけど…。


矢に貫かれた者がどうたら遺伝がどうたら…。


矢に貫かれた覚えはないため恐らく遺伝だろう。


とにかくそのスタンドというやつで、スタンドはスタンド使いにしか見えないらしい。


スタンドは一人につき一体。


そしてスタンドには個々に特殊な能力があるらしい。


色々試してみた結果、私のスタンドは私にとって吉となる道や行動に導いてくれるらしい。


迷ったときスタンドの指差す方向に行けば目的地に着いたし、スタンドに手招きされ一歩進んだ時に後頭部すれすれにボールが横切った事もあった。


そして何よりその力強さ!


その力と能力で怒り狂ったギャングに追われる日々をなんとかやり過ごし、4ヶ月後にやっとイタリアから脱出することができた。


正直もうイタリア行きたくないです…。


イタリア人怖い…。


そして私はそんな日々を共に過ごしたスタンドに名前をつけてやった。



『"ハラリエル"』



警告の天使。


日記に頑張って綺麗に書いた文字を指でなぞる。


これは決して気取ったわけではなく、ハラリエルが自分で名前を示したのだ。


特につけたい名前もなかったため、それ以来ハラリエル呼びで定着している。


能力は素敵だけど見た目や振る舞いは天使とかけ離れてるのによくもまあ天使と名乗れるものだ…。


先日地図を開いてどこがいいかとハラリエルに聞いたときも、ある一点を指したあと親指を立てていた。


天使となんか違う…、そう思いながら降り立ったのが今いる場所、シンガポールだ。


置き引きに鞄を盗られるというハプニングをハラリエルで解決しつつたどり着いたのは、同じくハラリエルが導いた少しお高めのホテルだった。


本当は嫌だったけどハラリエルがテコでもここから動かないという体で身構えていたため大人しく一泊だけすることにした。


今も私の後ろで何やらそわそわしているハラリエル。


また何かのお導きだろうか…。


ハラリエルは警告の時そわそわしてアピールするか強引に私を引っ張ったりする。


警告とは言っているものの、それが危険な時だけというわけでもない。


ただ見分けがつかないため、その導きを言いやすく警告と呼んでいた。


そわそわそわそわ


私は疲れていたためそれを無視した。


すると次の瞬間、椅子が後ろに倒れた。


瞬時にそのまま後転の要領で受け身をとり、回りを見回す。


すると、してやったりとハラリエルが私の後ろに立っていた。


どうやら今回はそわそわと見せかけて強引なやつだったらしい…。


スタンドは本体の命令に絶対…、ということは、もしかしたらこれは私の無意識の部分なのかもしれない。


行かなくちゃいけないという、自分の中の警告。


急いでいるのか私の腕を引っ張りだしたハラリエル。


そのただならぬ雰囲気にすぐ立ち上がり、ハラリエルが導く先へと行く。


そこは出入りのドア。


廊下かな?


鍵がパーカーのポケットにあるのを確認してから、ドアを開け廊下に出た。

ドアの閉まる音が二回連続で聞こえたと思ったら、体が何かにぶつかった。


そしてその一瞬後に何かが落ちる音がした。


顔を上げようとすれば、ぶつかった何かが先に動いた。



「おっと、すまねぇ」



それは人で、男だった。


さっきのドアの閉まる音からして、私の隣の912号室の人だろう。


その場にしゃがみこんだ男は何かを拾い、顔を上げてそれを、鍵を私に差し出す。



「これ、あんたのだよな?」



少し個性的な髪型とギザギザのついたピアス。


そしてその人懐っこい笑顔に、なんだか安心した…のは束の間。

人懐っこい笑顔が一気に厳しい顔つきになった。


まるで、何かを警戒するような…。


よく見れば、さっきまで合わさっていた視線が少しずれているような…。


その視線を追い、自分の後ろを振り返ってみた。


そこには任務完了とでも言うように親指を立てて立つハラリエルが居た。


…もう一度、男を見てみる。


すると再度視線が合った。



「お前は…!」


「あ、あの…?」



なんでしょう?と続く筈だった言葉は、廊下の向こうから慌ただしくやってきた三人組によって遮られた。



「ポルナレフ!何をしている!早く行くぞ!」



しゃがみこんだまま私を睨む男同様またがたいのいい男性三人。


全員個性的な服装やら髪型やらで…。



「おい、ポルナレフ。そのお嬢さんは…、っ!?」



しゃがみこんだままの男…ポルナレフさん?に話しかけたのは肌が黒い人だった。


そしてその人もポルナレフさんと同じ反応をし、ハラリエルと私を見て固まった。


ハラリエルといえば、私の隣に移動して相変わらず親指を立てていた。



「なっ、新手のスタンド使いか…!?」


「ち、違いますジョースターさん!いや、合っているのかもしれないが…根本的に違う部分がある!」


「花京院まで一体どうしたというんじゃ!?」



ま、また一人学生らしき子が私を睨んでる…!


やだ怖いイタリアの悪夢が…、…スタンド…?


今確かにスタンドって…。



「ジョースターさんは写真だけで正面から見たことがなかったですな…。この少女はあの男…DIOに似ている…ッ!」


「な、なんじゃとぉー!?」


「今なんて!?」



2m近くあるおじいさんの叫び声の後すぐに私も叫んだ。


私の耳がおかしくなっていなければ…。



「今…DIOって…!」


「や、やはりDIOの手先か…!その容姿も罠の一つだな!?」



聞き捨てならない台詞が2連打されるが私の言葉は両方無視。


しゃがみこんでいたポルナレフさんは飛び上がり、四人揃って私から距離を置いた。


うわぁいじめだ…。


私の頭を撫でるハラリエルにお前が元凶だと言ってやりたい…。



「シルバーチャリオッツ!」



私が嘆いているとポルナレフさんの横に銀色に輝く騎士が現れた!


す、スタンド使い!?


イタリアの悪夢再来…。



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