『天使は微笑まない』
□「伯父捜しの旅」
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19歳の夏、ちょっとの荷物と貯めたお金を持って伯父捜しの旅に出た。
都合の悪いところでは少し年齢を偽装しつつ、ただ伯父を捜すだけではつまらないと観光も楽しみながらじっくり巡る事にして観光ガイドを空港で購入する。
最初は日本!
理由は優しい国らしいから!
旅初心者だからなるべく優しい人が多いところがいい。
そんな理由で今日、初めてイギリス以外の国の土を踏んだ。
空港は綺麗だし、街も綺麗だし、居心地が良さそうだ。
そして日本人の顔が薄い!
…これは関係ないか。
でも欠点が一つあった。
イギリスとは違いじめじめした暑さ…。
フードの中が蒸れてかなり辛い…。
汗だくになりながら街中を歩けば外人が珍しいのか、たまに視線を感じる。
少し恥ずかしくて、いつもよりフードを深く被って猫背になった。
日本人の女の子は私よりも小さい子が多くてなんだか可愛い。
日本人に少し興味が出てきたけど、あくまでも私の目的は伯父!
でも東京タワーは行く!
ガイドブック片手にいざ行かん東京タワー!
………。
タクシーが見当たらない…!
どこかにタクシー乗り場とかがあるんだろうか…?
誰かに聞くのが手っ取り早いかと思い、私でも聞けそうな相手を探そうと辺りを見回す。
するとさっきまで私に突き刺さっていた視線がなくなり、逆に反らされていることに気づく。
…日本人は確か謙虚で恥ずかしがりやなんだっけ!
私と似てるなぁ…。
…でも今はどうにかしてタクシーを捕まえたい…。
誰か、英語がわかって親切な人ー!
キョロキョロしながら目を反らさない人を探す。
…私の半径3m内を人が通らないんだけど流石の私も泣きますよ!
あまりの避けられ具合に下を向きながら涙目になっていると、足元に影が射した。
人!!!
思い切り顔を上げれば、そこには素敵な笑顔の女性が!
「あら、ご旅行かしら?」
明らかにイギリス訛りの英語にさっきまで暗かった私の顔が一気に明るくなる。
主婦といった女性の風貌に日本在住のイギリス人と確信し、運のよさとこの女性の優しさに頭を下げたくなった。
「はっ、はいっ!イギリスから…」
「あらそうなの?実は私のパパもイギリス人なのよ、偶然ね!」
やっぱり!
確信が確実に変わって嬉しさのあまり泣きたくなる。
どうやら知らない土地に一人という状況が意外とストレスになっていたらしい。
「これからどこに行くの?」
「えっと、東京タワーに…」
「だったらタクシーが早いわね!ちょっと待っててね」
そう言って女性が道路に向かって駆け出していく。
なんと軽やかなステップ…。
「タークシ〜!」
道路に向かって手を振る姿はとても若々しく見えた…。
少しして女性の脇に止まったのは緑色の車。
…緑?
「…タクシー…?」
「タクシーよ〜?」
女性の笑顔に固まる。
…緑のタクシー!?
地元で見かけるタクシーは全て黒い。
普段出歩かないせいかもしれないけど、カルチャーショックに愕然とした。
よく見ればtaxiの文字!
地元にも探せばあるかもしれないな…。
地面に置いていた鞄を手に取り、緑のタクシーの助手席に近づく。
すると、後ろのドアがひとりでに開いた。
「うわっ!?」
急な事に驚き、つい後ろに飛び退く。
先客が居たのかも…と思って中を覗いてみたが誰もいない。
「どうしたの〜?」
「い、いや、勝手にドアが開いたから…」
「?タクシーは自動でしょう?」
なん…だと…!?
日本のタクシー怖い!!!
「"あ、この人を東京タワーまでお願いしまぁ〜す"」
私がタクシーに近づけずにいる間に女性が運転手さんに何か言っていた。
田舎者だと私の事を笑っているのかな…。
ああ…イギリスに帰りたい…!
「ほら、乗って乗って!この運転手さんが東京タワーまで連れていってくれるから!」
そう言って女性が私の肩を叩いた。
疑ってすみませんでした女神!!!
女性に日本のお礼の仕方、頭を下げる事で気持ちを伝える。
女性は笑顔で私に手を振ってくれた。
うん、女神。
そして私がタクシーに乗ったあとも手を振り続けてくれた女神の姿が見えなくなって、また孤独が押し寄せてきた。
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