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□i know what boys like
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カトレア・ソーンが嫌いとするものは数多いが、今この状況はその全てを組み合わせたものよりも彼女の嫌悪感を駆り立てていた。


「さてさてミス・ソーン」

神経を逆撫でするようなその猫なで声に、無表情を装っていたカトレアも思わず眉を吊り上げた。

スリザリンの寮監、セブルス・スネイプ教授はねっとりとした黒髪の間から申込書とO.W.Lの成績表を交互に見つめていた。
口元には意地悪そうな笑みを浮かべ、「どう料理しようか」と企んでいるようだ。
カトレアは自分の寮監にも関わらず、一目見た時からこの教授が苦手だった。
それは生理的なものでどうしてこんなに嫌いなのか自分でも分からなかったが、彼の「何か」を、体の細胞が拒否しているのだろう。
それに口にこそしないものの、スネイプ本人もカトレアを嫌っていた。
他寮の生徒たちよりはましだが、スリザリン生の中では一番待遇が悪いということは今までの経験上明らかだ。
それも二人の対立をますます深める要因となっている。

スネイプは他の生徒達より慎重に時間をかけて成績表を睨みつけていた。
何かいちゃもんをつけたがっているのは分かっていたが、カトレアはホグワーツでも指折りの優等生だ。
O.W.Lでは全教科O(大いによろしい)を取ったほどで、さすがのスネイプも文句は言えないに違いない。
カトレアはほくそ笑むのを堪え、腕を組んでスネイプの反応を見守った。

「―――全て結構」
しばらくしてようやくスネイプは口を開いた。
そして真っ白な時間割を杖先で叩いて、新しい授業の詳細が書き込まれた時間割を差し出す。
カトレアはひそかな勝利を味わいながら受け取ろうとしたが、すんでのところでスネイプによって取り上げられた。

「ところでミス・ソーン」
キッと睨むとスネイプはニヤニヤと嫌な笑みを浮かべた。
「前学期、我輩との面談をすっぽかしましたな?今を期にきみの進路についてお聞かせ願いたいのだが?」

カトレアはさっと顔を青ざめた。
先ほどまでの余裕が少しずつ消えていくのが手に取るように分かった。
そして唇を舌で湿らせながらどう誤摩化そうかと考えた。
「寮監に嘘をつくようなら、罰則も考えものですな」
爪の間を見つめながらスネイプはさりげなくそう言った。
まるで心を読まれた気分になり、顔には出さなかったがカトレアは思わず動揺してしまった。
この場を乗り切る嘘はいくらでも思いつくが、嘘をついたところでスネイプに見破られるだろうし、黙りを通しても何かにつけて聞き出そうとしてくるに違いない。
人の嫌がることをするのが何よりも生き甲斐なのだから。
逃げ場がないことが分かり、カトレアは仕方なく白状した。

「―――ライター(記者)です」
「ライター?」
「ええ」

何か文句があるなら言ってみろと顎を上げて身構えたが、その答えはスネイプにも想定外だったらしい。
珍しく面食らっているようだった。

「―――きみは他人に興味ないと思っていたが?」
「ないです。でも書くことは得意だし……」

たまたま横を通り過ぎたブロンドの頭を目で追いながら、上の空で答える。
幼馴染みは気づいていないのか、彼女の方を見向きもしなかった。
スネイプが答えを待っていたが、カトレアはその後ろ姿を見えなくなるまでじっと見つめた。
ドラコが大広間から出て行くと、ようやくスネイプと向き直った。
無視されたことに腹が立っているのか、教授の額には青筋が立っていた。

「……それに、今の情勢じゃパワーというよりどれだけの情報を持っているかが大事だと思うんです」

何事もなかったかのようにそう続ける。
スネイプは眉を上げた。
「つまりきみは情報で人を支配したいと思っているのかね」
「そうです」
あっさりと認めたせいか、スネイプは探るような目で彼女を見つめた。
(別に理解されなくてもいいわ)
睨み返しながらカトレアは心の中で毒づいた。

カトレアは情報の持つ力を信じていた。
それは時に暴力を制し、切り札となることもある。
闇の陣営だの、魔法界の危機だのと騒がれている今は特に。
スネイプに理解されなくても別に構わない。
だが最後に生き残るのは自分だという確信はあった。

「いつか秘密は暴かれる。遅かれは早かれ絶対に」

冷ややかにそう言って、スネイプの手から時間割を乱暴に奪い取った。
そしてにっこりと大きな微笑を浮かべてみせる。

「先生の秘密も明るみになりますよ」

私によって、とは言わないでおく。
だが意味する事は明らかだったので大広間から出て行くまでスネイプの視線を痛い程感じた。

廊下に出るなり、カトレアは走り出した。
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