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□cool kids
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列車の通路は人でごった返していたが、カトレアはそれほど苦にならなかった。
というのも彼女が歩くと誰もが自然に道を開けてくれたので楽に前へ進むことができたのだ。

しかしながらコンパートメントCに差し掛かると、突然中から出てきた相手に思わずぶつかってしまった。
相手はカトレアよりかなり背が低かったが、よろめいたのは彼女の方だった。

「おお、すまないすまない!」
相手は慌てて彼女を支えた。「大丈夫かね?」
まず目に飛び込んできたのはでっぷりとした腹だ。
そして銀色の立派なセイウチ髭。
つるつるにはげ上がった頭は、車内のわずかな明かりにも反射していた。
かなりインパクトのある風貌だなと思いながら彼女は「大丈夫です」と答えた。
目の前の人物が教授であることは明らかだったので丁寧にお辞儀をしその場を去ろうとしたが、背を向けた途端に呼び止められた。

「ちょっと待ちなさい」
さすがに無視することもできず、嫌々振り返ると彼はカトレアを頭の先からつま先までまじまじと見つめた。
値踏みされるのには慣れていたが、これほどあからさまなのは初めてだった。

「もしかしてきみはソーン家の子かい?」

いきなり言い当てられ、カトレアは目を丸くした。
当たり前だが、ソーン家とは血の繋がりがないので前当主とは似ても似つかなかった。
その外見の違いから誰もソーン家とは結びつけたりはしなかったので、名字を名乗る度に驚かれたものだ(そして養子だと分かると納得される)。
なので一度じっくり見ただけで言い当てたこの老人に、さすがのカトレアも驚かずにはいられなかった。

そんな彼女の気持ちに気づいたのか、老人は得意げに自慢の髭を撫でた。

「なに、きみの叔母であるキャサリンは私のお気に入りでね。よくその紺色のリボンで髪を結っていたのを覚えていたんだよ。今のきみのように、髪をポニーテールにしててね。
それにきみの身のこなし!まるで学生時代の彼女を見ているようだ!妹のテスの養子だとは聞いていたが、歩き方や背筋の伸ばし方なんか二人にそっくりじゃないか!
相当ソーン家流の躾を受けたと察するが……?」

カトレアはそれほど厳しい躾を受けたことはないし、立ち振る舞いも義母である前当主を見ているうちに自然と身に付いたものだったが、否定するのも面倒だったため、曖昧に微笑んだ。
それをどう解釈したのか、老人はうんうんと神妙に頷いた。

「ソーン家の名を継ぐのはかなりの苦労がいるだろう……部外者となれば尚更だ……。それでお嬢さん、きみの名前は?」
「カトレアです」
「ではカトレア、このコンパートメントCでちょっとしたランチを企画しているんだ。後でぜひ寄って欲しい」

絶対にお断りだと思ったが、素直に頷くと彼は大いに満足したようだった。

「それでは後で。きみと会えるのを楽しみにしているよ、カトレア 」

彼女は大げさにお辞儀をし、足早に次の車両に移った。
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