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□uncover
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シリウス・ブラックの存在を知ったのは3年生の時だった。

吸魂鬼の目をかいくぐり、あのアズカバンを脱獄したとして日刊予言者新聞の一面を飾っていたし、周りも大げさなほど騒ぎ立てるものだから知らない方がおかしい。
しかしカトレアはさほど関心がなく、彼がグリフィンドール寮を襲撃したという話を聞いても「自分に実害がないのなら」と聞き流していた。
学期末にブラックはまた逃亡したが、彼女はハリー・ポッターが一枚噛んでいるのではないかと睨んでいた。
事実、寮監のスネイプ教授が殺気立ち、ポッターと仲間達がそれを見て楽しんでいる姿を目撃している。
それからはブラックの情報は音沙汰なしだったが、一ヶ月前の予言者新聞で彼が魔法省で亡くなったという記事が「ハリー・ポッター、選ばれし者?」という大見出しの下にひっそりと載っていた。
ブラックの経歴と彼とポッター家との関係が書かれており、最後に彼の無実と形だけの哀悼で締めくくられていた。
カトレアは何の感情も湧くことなく、次のページをめくった。

―――シリウス・ブラックが自分の父親だなんて思いもせずに。


最初カトレアはダンブルドアが酷い冗談を言っているのだと思った。生徒をからかって楽しんでいるのだと。
しかしそんなことをしても何の利益もない。
わざわざ人里離れたこの館に来て、そんな冗談を言う程ダンブルドアは暇じゃないはずだ。
だがそれでも納得できず、カトレアはすぐさま否定的な言葉で一蹴した。
そんなわけない、間違いです、その人と面識なんてないし―――。
ダンブルドアは手を挙げて続けようとする彼女を制した。
「もちろん、きみは納得せんと思っておった。誰だってそうじゃろう―――しかしカトレア、その写真をよくご覧」
そう促され、カトレアは渋々先ほどの写真をもう一度眺めた。
最初見た時は気づかなかったが、なるほど、確かにシリウス・ブラックと彼女には外見的特徴が一致している部分があった。
整った目鼻立ちや少し挑戦的な顔つき、そして――灰色の目。
鋭いが笑うと途端に優しくなるその目は彼女にそっくりだった。
もしシリウス・ブラックが女になれば彼女のような容姿になるだろうし、逆もしかりだった。

だが同時に違う部分もある。
カトレアの髪は黒ではなく鳶色だし、ブラックのように楽しげに笑ったりしない。
というのも彼女は滅多に笑わないし、口角が上がるせいか笑っても皮肉っぽい笑顔になるのだ。
彼女だけのものなのか、それとも―――ここでそれ以上深入りするのをやめ、カトレアは写真から目を離すとダンブルドアを見据えた。

「納得したわけではないですけど、先生のおっしゃりたいことはなんとなく理解しました」
「それは懸命な判断じゃ」
「その事実を受け入れたとして―――先生は私をどうするおつもりですか」

そこでダンブルドアはにっこりと笑顔になった。
「安心しなさい。シリウスは……きみのお父上は安全対策を徹底的に行っておる。はじめこそわしは危惧しておった。
もしシリウスの従姉であるベラトリックス・レストレンジにきみの存在を気づかれたら、彼女は徹底的にきみを狙うと思っておったからじゃ。
しかしながらきみの情報は幸運なことに彼の遺言が見つかるまで全く明るみにならなかった!
シリウスの企み通りに。今でこそ数名が知っておるが、彼らは信頼でき、きみを保護したいと思っておる…しかし、じゃ」
ダンブルドアは身を乗り出し、半月メガネの上からじっと彼女を見つめた。
「闇の陣営は不死鳥の騎士団―――連中に対抗する組織じゃ―――の動きを事細かく見張っておる。
もし我々がただの生徒のためにむやみに動けば不審がるじゃろう。もしそうなればきみへの危険が増すばかりでシリウスの安全対策が無駄になってしまう。
なのできみにはこのままごく普通に生活して貰いたい。
無論、新学期からは多少の視線を感じるかもしれぬが、それほど気にはならぬと思う」
分からないことは?というようにダンブルドアは眉を上げたがカトレアは異論ありませんと頷いた。

勿論、予想外の展開に(闇の陣営だの、不死鳥の騎士団だの、自分を狙う親戚だの)ついていけない部分もあったが、唯一確かなのは他人にべったり護衛されるのはごめんだということだ。
面倒なことは避けたい彼女にとってダンブルドアの申し出はありがたかった。

「しかしそのために一つ条件がある」

ほっとしたのもつかの間、ダンブルドアの突然の言葉にカトレアは目を丸くした。
「条件?」
「なに、そんな大それたものではない」
警戒するように体を強ばらせた彼女を安心させるように校長は朗らかに言った。「ちょっとした頼み事じゃ」
青い瞳を輝かせながら、真っすぐに彼女を見つめる。

「きみの幼馴染みであるドラコ・マルフォイ少年を、見守って欲しい」
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