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□have yourself a merry little christmas
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一人の少女が暗闇の中で立っていた。
腕を組み、目の前の扉をじっと睨んでいる。
少女を怯えていた。どうしてこんなにも怯えているのか自分でも分からなかったが、扉の向こう側を覗くのがとても怖かったのである。
だが勇気を振り絞って恐る恐るドアノブに手を伸ばす。
頭の中で警報が鳴り響いたが、彼女は無視して扉を開けた。

最初に目に飛び込んで来たのは強烈な赤だ。

死に彩られた部屋。どこもかしこも血に塗れている。
少女はいつの間にか手にしていた包丁を離した。それは不気味な音を立てて床に転がった。
この世の終わりを眺めているようだった。炎に包まれているような感覚に襲われ息ができなくなる。
少女は膝から崩れ落ちると、のけぞって悲鳴を上げる。いつまでもあげつづける―――。




カトレアは目を覚ますなり、うんざりとした。
最悪な気分だ。頭は少し動いただけでも痛みがあるし、口の中には吐いた後の気持ち悪い感覚が残っている。
しかも悪夢まで見た。ずっと見ることがなかった夢だ。
(もう吹っ切ったと思ったのに…)
ため息をつくと目の前の天井を睨みつけた。
妙なデザインで、蜘蛛の巣が張り巡らされている。
そこでカトレアはここが医務室でないことに気がついた。
「お目覚めかい?」
声がした方に視線を向けると、リーマス・ルーピンが落ち着き払った様子でベットのそばにある椅子に腰掛けていた。
カトレアはどうして彼がいるのだろうと不思議に思いながら目だけを動かして周囲を見渡した。
「ここはどこ?」
「ブリストルのフラットだよ。お父さんが17歳の時に住んでいた場所だ」
カトレアは眉を吊り上げた。何がどうなっているのか分からない。
「どうして私がそんなところに?」
「ダンブルドアが曾曾曾曾祖父さんに言づてを頼んだろう?忘れたのかい?」
そこでフィニアス・ナイジェラスにルーピンと暮らすよう言われたことを思い出した。
ついでに最後にどのような状況で彼と再会したことを思い出し、カトレアはベットに横たわったまま彼を睨みつけた。

「―――よくも私に失神呪文を放ったわね」
「きみがドラコ・マルフォイに向かって許されざる呪文を使用しようとしたからだ。病む得なかった」
素っ気なくルーピンは肩をすくめた。
「気絶したきみをその場で退学にさせようとしたセブルスを止めるのに随分骨が折れたよ」
「いっそそうしてくれた方がよかった」
カトレアはフンと鼻を鳴らし、体を起こした。
失神呪文の後遺症か、全身に鈍い痛みが走ったが、カトレアは平静を装った。この男の、いや他の誰にも弱みを見せるのが嫌だったのだ。

ルーピンはどこか怒っているようだった。
その目を見れば分かる。カトレアを見る時のドラコやノットも同じ目つきをする。
生徒が許されざる呪文を使おうとしたのが気に喰わないのだろう。だがどうして彼がこんなにも気にかけるのか理解できないが。
ルーピンは身を乗り出し、カトレアの真意を探るように顔を覗き込む。
「そう言えば三年前も授業をさぼったり、派手な振る舞いをしていたね。あの時は他の先生方も目を瞑っていたけどいつもそうとはいかないよ」
「放っといてよ」
カトレアはうんざりとした様子で元教授の視線を手で払いのけると、ベットから降りてこの忌々しい空間から出て行こうとした。
が、ドアノブに触れた瞬間火傷をしたような痛みが走り、カトレアは弾かれたように手を離した。
「きみはここから出られないよ、カトレア」
真っ赤になっている自分の手を信じられない思いで見つめている彼女に向かってルーピンは静かに言った。
「人の魔力はそれぞれ周波数が違う。このフラットはきみの魔力の周波数に合わせてるんだ―――ここでは、きみは魔法が使えないし、外に出ることもできない」
信じられない。こんなことってフェアじゃない。
カトレアは怒りで自分の体が震えているのが分かった。
「すまない、カトレア」
睨みつけてくるカトレアに、ルーピンはにっこりと微笑んだ。

「これも全部、きみの安全のためだよ」
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