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□sweet dreams
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カレンダーの日付は10月に変わり、学期最初のホグズミード行きが数日後に迫っていた。

一方でカトレアとドラコの関係は何の進展もないままだ。
というのもつい最近まで幼馴染みの機嫌は最悪で―――理由は魔法省のアーサー・ウィーズリーがマルフォイ家の家宅捜索を行ったという記事が『夕刊予言者新聞』に載っていたからだ―――手のつけようがない程だった。
こういう時にこそ自分が救いの手を差し出すべきだと思ったが、ノットの考えは違った。
「きみが行っても火に油を注ぐだけだよ」
うずうずしているカトレアを諭すように彼は言った。
「こういうことはパーキンソンあたりに任せとけばいい」
パーキンソンに何ができるのかと訝しがったが、ノットの言う通り、話しかけたところで神経質になっている幼馴染みが噛み付いてくるだけだろう。
必死になってドラコを宥めようとしているパーキンソンの姿に後ろ髪を引かれつつもカトレアは持ち前の無関心を発揮することにした。

それから数日が経ち、ガールフレンドのおかげか、それともザビニとの罵り合いのおかげか、ドラコは少し落ち着きを取り戻したようだった。
気だるげにグラッブとゴイルを引き連れ廊下を歩いている幼馴染の姿を眺めながらカトレアが変身術のクラスへ向かっているとノットが彼女のポニーテールの先を後ろから引っ張った。
「なに?」危うく後ろから倒れそうになり、カトレアは不機嫌に目を細めて振り返った。
睨まれたノットは悪びれた様子もなくしれっとしている。
「きみ、ザビニとホグズミードに行くんだろ」
「そうだけど…」
正直なところ、すっかり忘れていた。
道理でザビニがホグズミードでどこに行きたいのかとしつこく尋ねてきたわけだ。ついでにあのニヤニヤ笑顔も忘れずに。
カトレアの微妙な反応を見てもノットは気にしていないらしい。
「そうか。ならまたきみがザビニを誘ってくれないか。皆の前で」
カトレアは訳が分からないというように眉を上げた。
「なんで?彼はとっくにその気よ」
「問題はザビニじゃなくてあいつ」
そう言って、ノットは前方を歩く幼馴染みを顎でしゃくった。
ちょうど年下の男の子の手から林檎を奪い取って意地の悪い笑みを浮かべている最中だった。
ノットの眉が少しだけ潜められたのを見て、彼があまり幼馴染みの行為を好んでいないということが分かった。
(それかただ呆れているだけかも)
気を取り直して、ノットは続けた。
「―――知っての通り、あいつ独占欲強いだろ。だからきみがザビニに愛想振りまいたらきっと行動を起こすと思う。おもちゃを取られた子供みたいに」
「それか一生口を利いてくれないかね」
ノットと至近距離で話しているところを見られた後のことを思い出し、カトレアはどうしても乗り気になれなかった。
また騒ぎを起こしたくなかったし、注目されるのはもううんざりだ。

「まあ、あの時はマルフォイも必死だったんだよ。相手は僕だったし」
そう言ってクスクスと笑った。口角がきれいに上がって、普段一文字に結ばれた唇から真っ白な歯が覗いていた。
「だけど、ザビニは別」
カトレアは訳が分からなかった。「どういう意味?」
「マルフォイはきみを守るためなら何でもするってこと」
ノットは彼女の髪を指で弾くと先に歩き出した。
通り過ぎる際、彼から満月草の香りがした。



変身術の教室に着くと、カトレアは真っすぐブレーズ・ザビニが座っている席に直行した。
彼はちょうどドラコの後ろの席に座っていて、隣のハーパーと何やら話している。
口ぶりからして女の子のことだろう。
カトレアを見ると、ザビニは話を中断し、傲慢だがハンサムに見えると本人は思っているらしい微笑みを浮かべた。
「よお、ソーン。相変わらず美人だな」
「あなたも相変わらず素敵ね、『ブレーズ』」
そう返すと、ガツンと頭を殴られたかのようにザビニは目を大きく見開いた。
彼だけではない、その場から半径3メートルに座っていたスリザリン生は皆話すのをやめ、何人かは後ろを振り返った。
前に座っている幼なじみにも確実に聞こえていて、興味なさそうに頬杖をついていた彼がずるっと顎を滑らせたのが見えた。
ザビニはまじまじとカトレアを頭の先からつま先まで見つめた。
「あの……お前本当にあのソーンか?誰かが化けてるとかじゃねえの?」
そう言ってちらりとノットの方を見る。
ノットは確実にこちらの様子に気づいていたが、興味なさそうに欠伸をして教科書をペラペラと捲っていた。
「馬鹿言わないでよ」
カトレアは唇を尖らせ、ハーパーの筆記用具を床に落とすと机の上に肘をついて顎を載せにっこりと微笑んだ。
確実にフェイクで女子生徒なら完全に見破られそうだが、ザビニはその笑みに完全に見入っていた。
男の子って単純ね、と内心思いながらも自分が知る限り、最も艶やかな声で囁く。

「ブレーズ、今度のホグズミードではあなたにエスコートして欲しいわ」

今度は教室にいた全員が振り返った。
スリザリン生だけでなく、グリフィンドール生もだ。
そして目の前の幼馴染みの首が360度回った。
目の端で見えた彼は驚愕で口をあんぐりと開けていた。
(かかったわ)
ガッツポーズしたくなる衝動を必死でこらえながらもカトレアはザビニの黒い玉のような目を見つめ続けた。

「―――もちろんさ」

ザビニがそう答えた時、授業の開始ベルが鳴った。
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