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□i know what boys like
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「自分の機嫌が悪いからって食べ物に当たるのはやめていただけますかね」
ゆで卵をテーブルに押しつけ殻を潰しているカトレアを見てセオドール・ノットが不愉快そうに眉を寄せた。

大広間はいつものように沢山の生徒たちの話し声や笑い声、ファークとナイフが当たる音で一杯になっていた。
一年生たちは緊張し、慣れないネクタイに首を絞められているかのように顔を真っ青にして縮こまっている。
寮がそれぞれ違うとはいえ、そういうところは共通しているようだ。
カトレアとノットは一番左端の、スリザリンのテーブルにいた。
お互い友人同士ではなかったが6年前から同じ席に座っている―――人に見られることなく、周りを見渡せる一番後ろの席だ。
二人とも決して前方の席に座ろうとはしなかったし、他の寮生も一番後ろの席に座る気はないようだったので、そこは自然と二人の特等席になっていた。

自分の言葉を無視し、まだ卵を転がし続けるカトレアに、ノットはやれやれというようにため息をついた。
「当てようか。原因はマルフォイだろ」
ようやくカトレアは手を止め、顔を上げた。
「どうして分かったの?」
「さっき虫けらを見るような目であいつを睨んでたから」
そう言って彼は顎で前方を指した。
それにつられて振り向くと、ちょうど真ん中の席で幼馴染みが鼻をへし折られる真似をして皆を大笑いさせていた。
先ほどのことを思い出し、カトレアはまた怒りが沸き起こるのを感じた。
ノットに見られているのは分かっていたが、我慢できず指をパチンと鳴らす。
するとまるで操られているかのように幼馴染みの手が拳をつくり、彼の横っ面を殴りつけた。
ドラコの口が大きくOの形になり、うめき声が漏れた。
だが周囲はそれもパントマイムの一つだと思ったようでまた歓声が上がった。

それを見ていたノットはぽつりと感想を漏らした。
「性格悪い」
「だってここはスリザリンですもの」
そう言って無邪気に目をぱちぱちさせれば、ノットも肩をすくめるだけで何も言えないようだった。

スリザリン生といえば組み分け帽子や周りの評判通り、皆保守的で野心家、そして軒並みにプライドが高い。
その特徴は何かにカテゴライズされるのが嫌いな彼にも残念ながら当てはまることだった。

カトレアは肘をついて手を組むとその上に顎を載せた。
そして興味深そうにノットを見つめた。
純血の名家の例に漏れず、彼もそれなりに整った顔をしていた。
ダークブロンドの髪に琥珀色の瞳という色合いに、まだ少年っぽさを残した繊細な顔つきをしている。
しかしガリガリに痩せていて、なおかつ表情が乏しいせいかあまり女子の人気は高くない。
筋張った体を丸め、パンを千切って口に運ぶ動作を繰り返すその姿は周りから自分という存在を遮断しているように見える。

自分が観察されていることに気がついたのか、ノットは眉を上げた。
「なに?」
「あなたが人を観察してるなんて意外だと思って。他人なんかどうでもよさそうなのに」
「まあね」彼は肩をすくめた。「だけどきみは別」
カトレアは首を傾げた。途端に結んでいたポニーテールが揺れた。
「それどういう意味?」
「きみは観察しようがあるってことだよ」

カトレアは納得できなかったが、これ以上追求しても彼は答えてくれる気はなさそうだった。
ノットは話を変えた。カトレアの真似をしているのかわざとらしく小首を傾げてみせる。

「それで?きみこそどういう風の吹き回しで三年間ろくに口もきいていない奴と仲直りしようと思ったんだ?」
「ただの気まぐれよ」
彼女はつん、とそっぽを向いた。
だがノットは納得していないようで、じっと彼女の横顔を見つめた。

「―――それってあいつの親がアズカバン行きになったことと関係ある?」

カトレアはどきりとしたが、顔には出さず淡々と「違うわ」と答えた。

「もうどうでもいいわ。あの人と私はもう昔みたいに戻れないってはっきりしたから」

面倒くさそうにそう言って、彼女はローブの皺を伸ばすことに集中しているふりをした。
だが暫くしてノットがくっくと喉を鳴らして笑い始めたのでカトレアは不審げに目を上げた。
彼は頬杖をついて笑いを噛み締めながら前方を見つめていた。
「―――きみが思っているより希望はありそうだ」
物問いたげに眉を上げると彼はさも愉快そうに言った。
「どうして?」
「マルフォイを見てみなよ」
そう言われてカトレアは横目で幼馴染みを隠し見た。
ドラコはフォークを持ったままノットを凝視していた。
隣に座っていたパーキンソンがなんとか注意を引こうとしているのにお構いなしだ。

「あなたを睨んでる」
そう指摘すると、ノットはニヤリと笑った。「そういうこと」
「訳が分からないわ」
すると彼はテーブルから身を乗り出して彼女に顔を近づけた。
普段内気なノットにしてはかなり大胆な行動で、カトレアは驚いた。
ちらりとドラコの方を見ると、今にも杖を引き抜いて呪いをかけてきそうな形相で、彼を睨みつけていた。

「きみと話してるからだよ」
耳元でノットが含み笑いをしながら意味深に囁いた。

「あいつができないことを、僕がしてるから」

その言葉の意味を、カトレアは理解できなかった。
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