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□cool kids
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紅色の蒸気機関車がもくもくと空に向かって煙を上げている様子をカトレア・ソーンはぼんやりと眺めていた。
周囲はおしゃべりや動物たちの鳴き声で騒々しいが、気にしていないようだった。
というのも彼女は考え事で頭が一杯で他のことに気を取られる余裕がなかったのだ。


シリウス・ブラックが実の父親だという事実を、彼女はまだ受け入れずにいた。


確かに見た目はそっくりだ。それは認めよう。
しかしそれだけでブラックが父親だと決めつけるには早合点な気がする。
彼の遺言になんて書いてあったのかは知らないが、ダンブルドアが間違っている可能性もある。
それにもし彼が父親なら―――一目見ただけでカトレアには分かるのではないだろうか。
母虎が鳴き声だけで子を判別できるように、血の繋がった親子なら、何か特別なものを感じるはずだ。
だがカトレアは何も感じなかった。
親子の絆というものを写真の中にいる男に求めるのもおかしな話だが、それでも釈然としない気持ちになった。
もし直接会っていたら話は違っていたのかもしれないが。

カトレアは深いため息をついた。
面識もない、しかも既に亡くなっている相手についてこれ以上考えても時間の無駄だ。
詳しいことはまたダンブルドアに聞こうと心に決め、一番の問題に頭を切り替えた。

ドラコ・マルフォイにどう近づくか。

ダンブルドアと約束してしまったし、見殺しにするわけにもいかないので了承したが、やはり気がすすまない。
何せ幼馴染みとは3年間も口を利いていないのだ。
普段人を寄せ付けないカトレアに、疎遠になった相手と距離を縮める方法なんて分かるわけがない。
しかも彼女がドラコをよく知っているように、彼もまた彼女を知っている。
何かしらのメリットがなければ、カトレアは無駄な人付き合いなどしないということを。
突然近づけば、ドラコは警戒するはずだ。

さてどうしようかと頭を悩ませていると、視界の隅にやけに目立つ集団が見えた。
なんとなくそちらに視線を向けるとその中にハリー・ポッターがいて思わず動揺してしまった。
しかも目が合いそうになったのでカトレアは慌てて顔を背け、一番近くの戸口に乗り込んだ。
恐る恐る肩越しに振り返るとハリー・ポッターは何事もなかったかのように赤毛の友人と話している。
カトレアはほっと胸を撫で下ろした。

実の父親がシリウス・ブラックだと知って、ますます彼女はポッターに苦手意識を感じていた。
というのもブラックがポッター家と仲がよく、しかも彼の名付け親だというのをどこかの記事で読んだことがあるからだ。
名付け親の娘と知れば、馴れ馴れしく話しかけてくるに決まっている―――もしかしたら友達になろうと言い出すかもしれない―――ポッターと関わりたくない彼女にとって、それは何よりも避けたいことだった。

「――――厄介なやつ」

彼のポケットからはみ出ているネクタイの、輝く赤と金を睨みつけながらカトレアは苦々しげに呟いた。
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