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□uncover
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ソーン家の館はヨークシャーの荒野が広がる丘の上にひっそりと佇んでいた。
3年前に女主人が亡くなって以来、カトレア・ソーンは一人でその館に住んでいた。
まだ成人していない彼女を気遣って魔法省を始め、数多くの名家たちが保護を申し出たが、彼女は丁重に断った。
そして周囲の心配をよそに先祖(血は繋がっていないが)の館を見事に管理した。

今、彼女は客室でアルバス・ダンブルドアとテーブルを挟んで向き合っていた。
普段彼女は感情を表に出すことはないのだが、今回ばかりは動揺を隠しきれずにいた。
突然ホグワーツ魔法魔術学校の校長が尋ねてくるなんて誰が想像できただろう。
カトレアは今まで一度もダンブルドアと交流したことがなく、こうして間近で見るのは初めてだった。
いつも職員テーブルから離れた席に座っているので気づかなかったが、ダンブルドアの目はキラキラとしたブルーだった。
じっと見つめていると何もかも見透かされている気がして、カトレアは目を逸らした。

「突然の訪問にさすがのきみも驚いたかの、カトレア」
最初の挨拶の後、初めてダンブルドアは口を開いた。
朗らかで、少し悪戯っぽい口調だった。
「…ええ、まあ」
自分の名前を知っていることに内心驚きながらも彼女は認めた。「先生は私のことなど存じてないと思っていました」
「まさか!わしは全ての生徒の名前を――卒業生も含めて――暗記しておる。まだ惚けてはおらんつもりじゃ」
特にきみのように才能ある生徒はよく存じておるよ、とウインクする。
なんと言っていいか分からなくなりカトレアは曖昧に微笑んだ。
先生の関心はもっぱらハリー・ポッターだと思っていました、とは言わないでおく。
ダンブルドアを困らせるだけだし、子供染みて聞こえるからだ。
でも、校長は全てお見通しだったのかもしれない。
半月型の眼鏡の奥にある目がきらりと光った。

「―――わしの突然の訪問を不思議に思っているじゃろうな、カトレア」

だがそれ以上追求することもなく、ダンブルドアは本題を切り出した。「実はきみに知らせを持ってきたのじゃ」
「知らせ?」カトレアは眉を潜め、おうむ返しに繰り返した。
「そう」ダンブルドアは頷いた。「きみのお父上のことじゃ」
一瞬、脳が活動を停止した。息をするのも瞬きするのも忘れてしまった。
この人、一体なにを言ってるの?

「理解しがたいことじゃろうが、三日前に発見された彼の遺書から娘の存在が記されておってのう。調べていくうちにきみがその娘だということが分かって………」
「ちょっと待ってください」
カトレアは慌ててダンブルドアの言葉を遮った。
頭の中が混乱して、内容が理解できない。

「………私に、父親が?」

彼女にとって、父親という存在はおとぎ話の中に登場する空想上の生き物のようなものだった。
というのも彼女は6歳の頃に養子に出されたが、それ以前の記憶が全くないのだ。もちろん、両親の記憶も。
母親代わりだった女主人も独身だったので、父親と似た年齢の男性と一緒に過ごしたこともない。
子供を持つ純血の名家たちを集めたパーティに参加して、そこで初めて母親と一緒に子育てをする「父親」という存在を知ったのだ。
だからこそ、カトレアにとってその知らせは―――とても突拍子もないことのように聞こえた。
しかも――――

「その人、亡くなったんですか」

ダンブルドアはさりげなく事実を伝えようとしていたが、彼女は聞き逃さなかった。
一瞬、校長の表情に深い悲しみが過った。
瞬きする間もないほどほんの一瞬の出来事だったが、思わず息を呑んでしまった。
しばらくしてからダンブルドアは口を開いたが、その声は先ほどと変わらなかった。

「残念ながら、その通りじゃ。ついひと月前にのう」
そう言って、彼は一枚の写真を彼女に差し出した。「きみも名前を聞いたことがあると思うが」

差し出された写真の中に、一人の若い男が映っていた。
黒髪のハンサムな青年で、豪快に口を開けて笑っている。
カトレアに気づくとますます笑って写真の中から手を振った。
写真を裏返し、そこにある名前を見てカトレアは絶句した。「この人って………」

アルバス・ダンブルドアは重々しく頷いた。

「きみのお父上の名前はシリウス・ブラック。つい先日まで世間から誤解を受けてきた者じゃ」
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