星屑ひろいの少年2

□聖なる暗室
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悠太の回想は、意識の覚醒によって強制的に終了した。
 悠太が目覚めると、まず鼻の中に湿っぽい、生ぬるい空気が侵入してきた。そして、すぐ近くでザアザアと勢いよく水が噴き出す匂いがした。
 薬品のせいなのか、未だ若干酩酊感の残る頭を何とか持ち上げた。
 悠太の服装は、上官たちから逃げ延びた時と何らかわりない迷彩服だった。
 被っていた帽子が頭から外されて、近くの壁に掛けられている。
 周りは、全体的に薄暗く、天井に褐色の電球が煌々と光っているだけだ。悠太が倒れていたのは、畳三畳分くらいの床に敷かれたカーペットの上だった。
 向うには、悠太たちがいつも使っている共同浴場をずっと小さくしたような浴槽と、タイル張りの三畳くらいの空間が広がっていた。浴槽の向う側に小さな窓が据え付けられているが、完全に締め切られて外の空間は把握できない。しかしここが月面であることは間違いないだろう。
 それ以外の壁は、塗装もされていないむき出しのコンクリートで塗り固められている。
 悠太が訝しんできょろきょろしていると、浴槽の陰から女の影が現れた。
「いらっしゃい。君が次のお客さんね」
 細身で、身長は一六〇センチくらいだった。目はパッチリして少し斜めに吊り上っている。唇は少し大きめで、髪の毛は肩くらいまでで切りそろえてある。
 身体には黒色で薄手のドレスを着ている。ほっそりとした体の曲線から、小柄なくるぶしと足首が見えている。
 全体的に小作りだが、奇麗な女性だと悠太は思った。
 彼女は、躊躇なく悠太の横を通り抜け、悠太のうしろに設置されていた、薄い布が敷かれたベットに座った。
「私は、リカっていいます。よろしくね」
「は、はあ…」
 悠太は困惑して、キョロキョロあたりを見回した。自分がどうしてここにいるのか、ここに何のために運び込まれたのか、まったく分からなかった。そもそもここは、何をする場所なのだろうか?
「私、よくタイの人に間違われるんだ。お客さんに。そんなにアジアっぽいかな?」
「ま、まあ、そうかもしれないですね」
「ここに君を運んできた人たちも、君をいきなり外国人のところに連れて行くのは刺激が強すぎるって、日本人の私のところに連れてきたのよ」
「外国人もいるんですか?」
「まあね。ここは、いろんな国の人が出入りするから」
「ここで…僕はどうすればいいんですか?」
 悠太は、あまりに正直すぎる質問をぶつけてみた。リカという女性は、少しだけ笑った。悠太は、それはおそらく苦笑したのだろうと思った。
「あの人たちにはね、君を『使い物にならないようにしてくれ』って言われてる」
「使い物?」
「君は、もちろんこういう体験は初めてよね?」
「まあ…」
 どんな体験が初めてなのか、悠太にはよく分からなかった。しかし背中にぞわぞわと悪寒が走り始めた。
薄暗い部屋と狭い風呂場とベッド。そして少し大人の女性と二人きり。   
悠太は、考えれば考えるほど悪寒が走るのを感じた。そして同時に、万梨阿に対してもなんだか申し訳ない気がしてきた。
「まだちょっと若すぎる気もするけれど…彼女が出来た時の予行練習と思えば、悪くは無いよね」
「何をすればいいんですか?」
「もちろん、セックスよ」
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