星屑ひろいの少年(下)

□「資本主義」の精神
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悠太はこの日も、規則として定められた八時間の労働時間の後、四時間も採集場に残って石を拾い集めていた。帰ってくるころには、もう誰も採集場に残ってはいなかった。
悠太は、せっかくいい採集場が見つかったばかりなのにすぐさま引き返すのがもったいなくて、せっせと石を拾い集めるうちに、気付けばあっという間に夜の時間帯になっていた。
ここから寄宿舎まで歩いて一時間近くかかる。急いで帰って寝なくては、明日の出勤時間にも間に合わないだろう。
 急ぎ足で一人、誰もいない荒野の月面を歩いて行く。もうここに来て四か月になる。いままでに本当にいろんなことがあった。
しかしいちばん変わったことといえば、自分の考え方かもしれない。
 悠太は一人歩きながら、そう考えた。
 寄宿舎の部屋に帰ると、気が緩んだせいか疲れがどっと噴き出してきた。一日歩き通しだったせいで、ふくらはぎのあたりがやけに痛い。採集中はまえかがみになっているせいか、肩もやけに固くなっている。
 他の者はもう布団に入って寝静まっている。悠太が部屋に帰ってきても、誰一人目を覚ますものはいない。
 悠太は、部屋の明かりを消したままにして、ドアの隙間から漏れてくる通路の明かりを頼りに着替えを持ち、共同浴場へ向かった。
 共同浴場には日本人はいなかった。青い眼と黄金色の髪をした少年二人が、湯船の端に腰を付けながら何やら熱心に議論している。英語もろくに聞き取れない悠太には、その言葉の意味はさっぱり分からない。
 シャワーで身体を簡単に洗い、脱衣所で髪を乾かし、歯を磨いた。そのまま駆け足で部屋に戻り、さっさと布団に潜り込む。
 悠太がゆっくり目を閉じると、明日何時に起きてどこへ行き、何時に帰ろうかなど行動予定が無意識に頭に浮かんできた。そして、現在が地球では二月だから、自分が地球に帰るまであと六か月あるな、などと悠太は勘定した。
 同時に、地球に居る両親やクラスメイトのことが頭に浮かんできた。自分は一年ここで遠征を行った結果、同級生たちとは一年遅れで高校へ入学する。悠太が通うのは地元の公立高校の予定だが、同級生がいない分また一から人間関係を築かねばならないことになる。
悠太は、自分の性格が内向的な分、新しい環境に慣れるのにそれなりに苦労するだろうことは知っていた。心配も多いが、地球のことは地球に戻ってから考えればよい、そう結論してそれ以上考えないことにする。
 その日、悠太の脳裏に絵のことが浮かぶことは、結局一度も無かった。
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