星屑ひろいの少年(下)

□夜が来る
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立ち上がった悠太に、急に外の世界がはっきり見えてきた。自分がどこに迷い込んできたのか、悠太にはさっぱり分からなかった。しかし、今自分の居る薄暗い空間は、まだ地中深くへ繋がっている。
 ――ここは、どこに繋がっているんだろう?
 悠太はふと、疑問に思った。さっきから少女は黙ってこっちを見ている。心に余裕が出来たせいか、悠太はこの空間の先に少しだけ興味が湧いてきた。
 すると、空間の奥から、バタン、という鉄のドアを開くような音が木霊してきた。そうして、空間の奥から誰かがこちらへ歩いてくる。
 悠太はとっさに、外の岩陰に身を潜めた。ブーツが、乾いた砂利を踏みつける音がだんだんとこちらに近づいてくる。
 ――上官だ!
 洞窟の入り口で、月面の光に照らされた横顔は、上官のものだった。こんな夜遅くに、なぜ彼はここに来たのか、という当たり前の疑問が悠太の心に浮かび上がった。
 上官は、洞窟から月面へ出ると、そのままどこかへ歩いて行った。その後姿が消えないうちに、悠太は洞窟の中に再び入りこんだ。
 ――何かがある! 何か、大事な秘密がここにある!
 悠太の直感が全力でそう訴えかけている。
この先に、何か上官以上の人しか知らない、自分たちの知らない秘密がある。そして、悠太はそれを知らなくては済まないと言う気持ちがしている。
 悠太は、薄暗いのに構わず早足で洞窟を駆け下りて行った。すると、五百メートルもしない所で、鉄の重い扉に辿り着いた。扉はまだ錆びてもいないし、汚れた形跡も少ない。
明らかに、最近作られたものだった。
 ドアには鍵穴が設置されているが、悠太がドアノブを触ると、がちゃりとドアノブは回ってしまった。鍵はかかっていない。
 悠太の心臓が、どきんとした。
この先に、見てはいけないものがある。しかしそれを悠太はどうしても知りたい。自分の直感が、全力でそう訴えかけてくる。しかし同時に、それがさらなる絶望を悠太に運ぶ可能性も十分にあった。
 これ以上苦しい現実を知りたくないのなら、ここで引き返すと言う手もある。しかし今の悠太には、そんな選択肢は端から無かった。どんな真実が待ち構えていようと、自分はドアの先を開け、中身を知るつもりだった。
 不意に、ドアノブに駆けられた悠太の手を、横から静止する手が現れた。
 少女だった。
 少女は、今までにない、緊迫した表情をしていた。そして、か細い手で悠太の手を掴んでいった。しかし、彼女の手の感触はまったく無かった。
「ここを開けちゃダメ」
「なんでさ」
「きっとあなたは、失望するわ」
「もう失望しきってるよ」
 悠太は、真剣な表情で少女を見据えた。
「でも、だめ。お願い、開けないで」
 少女の言葉は、嘆願に変わった。しかし悠太はそう言われると、ますますその先を知らなくてはいけない気がしてきた。
「いや、開けるよ」
 そう言って、少女の制止も聞かず、ドアノブを勢いよく捻った。
「ダメ、その先は……!! 」
 少女の叫び声が辺りに木霊した。
悠太はそのまま、部屋の中に押し入った。
「こ、これは……」
 悠太は、撃ち抜かれた様な衝撃に、茫然となった。
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