星屑ひろいの少年(下)

□悠太の生きる道
12ページ/12ページ

悠太は、自分の脚からジンジンと疲労感が伝わってくるのを感じていた。精神は、さっき外で上官に叱られたことで鉛のように活動を鈍くしていた。
 自室に戻ると、急に身体の緊張が解けた。悠太はいままで身体が無意識に緊張していたことを、初めて知った。同時に、降りかかるように疲労感が圧し掛かってきた。
 机の椅子に座ることも億劫になって、思わずぺたりと地面に倒れ込んだ。
悠太の腹の中では、意識せず上官の顔、月での労働、同僚の小林の顔が次々と浮かんでは消えて行った。それは悠太にとってほとんど無意識の働きであった。
 悠太は、それらが頭の中をぐるぐると回っていることを、無意識に不愉快に思った。
安心しきった悠太に、急に眠気が襲ってきた。
通路の方から、誰かが声を発しているのが聞こえた。それが自分に何ら関係のないものであることが、悠太を安心させてますます眠りに誘った。
 ふと気が付くと、目の前にはこの間出会った少女がいた。
少女は、薄緑色の髪で白いブラウスのようなものを身に纏っている。ブラウスから伸びる手足は非常に肉付きが薄かったが、不健康な印象は受けなかった。そこから見える目は、黒く澄んでいてまるで先が見えなかった。
少女は悠太に語りかけた。
「今日は、疲れたのね」
「ああ、そうだね」
 悠太は、言われるままにそう答えた。
「どうして、そんな顔をしているの? 」
 少女が聞いてきた。悠太は、少女がなぜそんなことを問うたのか、分からなかった。しかし直に、自分の顔がひどくこわばっていたことを自覚した。
「どうもしないよ」
「ほんとうに? 」
「ああ、本当だよ」
「うそよ、分かるわ」
「どうもしないって」
「あなたの望みは……」
「うるだいな! だまれよ! 」
 少女は、いきなり悠太が大声を出したことにびっくりしたようだった。悠太はそんな彼女に構わず、言葉を続けた。
「僕の望み? そんなことで、なにが解決するんだ! 誰が救われるんだ! この苦しさから! この人生の呪いから!
 僕の望みでは、もうなんにも解決しないんだ! もっと、もっと大きな、深刻な問題ばっかりなんだよ!
 きみは、お前は、一体誰だ! さんざん僕に付きまとって、気まぐれのように現れて! きみの正体を教えろ! きみは、一体、誰なんだ! 」
 少女は、驚いても笑ってもいなかった。ただ、真顔で悠太の方をじっと見て、何かを言いたいような顔をしていた。
彼女から、悠太の問いに対する明確な答えは出てこなかった。
「……本当のことが知りたいならば、ここから東に一キロ言った先に、地中に通じる洞窟がある。その中に来れば、きっとすべてが分かるわ」
「すべて? 」
「あなたの知りたかったことが、分かるわ」
「君の正体が分かるんだな? 」
「ええ」
 少女はそう答えると、急に悲しそうな顔をした。それは、さっきまで悠太に対していたのとはまったく違う態度だった。
彼女は急に悠太に対しての興味を失ったようで、黙って部屋の入口の方へ向かった。
「でも、きっとあなたは後悔する。本当のことは、いつも悲しいから」
「悲しいって、なんだよ? 」
「さあ……」
 そういうと、少女はそのままドアを開けて消えて行った。悠太は、彼女を呼び止めようとして、ドアの方へ向かった。
「ちょっと、待って……」
 悠太がドアを開けると、そこには誰もいなかった。さっきまで居たはずの少女は、蒸発したかのように消えていた。
 悠太は腑に落ちないまま、再びドアの扉を閉めた。
次の章へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ