星屑ひろいの少年(上)

□小林という男
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友達を作らなきゃ世間を渡っていけない、相手には気を使っていい人に思われなければ、女子には振り向いてもらえない。課金しなければ、課金勢には勝てない! 」
小林は、なぜか最後にだけ力を込めた。
「でもある時、気づいたんです。そういう無駄なことに使っているエネルギーが実は莫大で、世間のほとんどの人は持っているものを持ち続けようとすることに、ほとんど全エネルギーを使っています。
それが分かってから、僕はほとんどすべてを捨ててきました。
まず、勉強を一切しなくなりました。
次には、朝、鏡の前で自分の姿を気にするのを止めました。当然、髪をとかすこともしません。寝癖すら直しません。
次に、好きな連中としか付き合わなくなりました。おかげで学校に友達はほぼいなくなりました。
ネトゲの課金勢には、そんなんでお前たちは恥ずかしくないのかと、はっきりいってやりました。これをきっかけに、僕のログインしているゲームの中では大規模な課金論争が起き、二大勢力の争いはネトゲ外にまで飛び火して、炎上まで発生しました。おかげでそのゲーム自体が、今はプレイできないありさまです。
親からは勉強ができないからと叱られる、学校では話し相手もおらずシカト同然、ネットでは素性がバレていて、ある人にとっては神様、ある人にとっては犯罪者。それが僕の現状です。
でも、僕は反省もしていなければ後悔もしていません。
だって、今まで必死に守っていたものを手放したおかげで、自分にとって本当に何が大切か、はっきり分かったんですから。
今の僕には、誇張でもなく、世界が輝いて見えます。
陳腐に見えていた現実が、今はまったく違った輝きを持って、あちらから語りかけてくれます。それまで必死に守ってきたものを手放せば、もっと自由な空気の中で呼吸ができるんです。
だからと言って、僕を現実逃避課金組の連中と一緒にしないでください。僕は、逃げたんじゃない。
『NO』とはっきり言ったんです。
合わないことに、どうでもいいことに、大切でもなんでもないことに『NO』といって、自分なりの生きる道を付けたんです。
大切なのは、何でも掛け持って、バランスを保つことじゃあありません。勇気を出して、捨てることです。余計なものを捨てれば、進むべき道は自然と浮かび上がってきます。
僕は、楽しければいいんです。
どこまでも愉快に、適当に生きて、合わないモノの前からはそっと遠ざかり、好きだと思うものにだけ愛を注いで、愉快に楽しく生きていきます。その手段として、僕はここに今来たんです」
小林の言葉や現状は惨憺たるものなのに、彼の言葉には誇らしさすら漂っていた。むしろ、悠太には誇らしさしか感じ取れなかった。悠太はそんな小林が、少し哀れにも見えた。
「お前、そんなこと言って、親に叱られたり学校で無視されたり、辛くないのかよ? 」
悠太は聞き返した。
「つらいですよ。肩身も狭いですし。でも、モノや世間の肩書を背負って、狭苦しい世界の中で傷付けたり傷付けられたり、そんなことしてる連中よりは、僕はよっぽどこっちが好きです」
「……ふうむ」
なんだか悠太は、小林の言葉に感心してしまっていた。
いかにも陰気でだれも寄り付きたがらない彼の中には、それを覆すような黄金律が眠っているようだった。少なくとも、中途半端なままの悠太より、それははるかにましなように思えたのだ。
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