刀剣乱舞
□一周年記念絵が審神者を殺しました
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「あっ、あなや、あなやーーーー!」
ばたん。
「主ーッ!」
その切ない音と共に、審神者はこの世を去った。
「主が、主が我々の一周年記念公式絵なる物を見て死んでしもうた」
「主、主……」
「主様……嫌だぁぁぁ……‼」
その日、我々の主は鼻血を出して死にました。
その本丸の審神者の墓は、本丸の敷地内の、縁側から直ぐ目に入る場所に立てられることになった。それは、刀剣が審神者を忘れぬ為、審神者が刀剣を忘れぬ為の考慮。
審神者は記念絵を拝み、鼻血を噴射してこの世を去った為、「審」の文字や審神者着が血で染まっていた。
最後の時は美しく。政府から派遣された女性が彼女の鼻血を丁寧に拭き取り、審神者着も着替えさせ、顔には化粧を施してくれた。それは、刀剣たちが初めて見た審神者の姿でもある。
「君には赤が似合うと思っていたんだが……鼻血の赤よりもやっぱり、白の方が似合うな」
棺越しに、鶴丸が切なげに審神者の髪を撫でる。他の刀剣たちも審神者に挨拶をし、全ての刀剣が挨拶を終えると、その日のうちに審神者は墓へと埋葬された。
「ばいばい、主様」
*******
「小狐よ、小鳥が遊びに来たぞ」
「なんじゃ三日月、そんなに嬉しそうに」
小狐丸が、三日月の指差す方向を見た。それは、審神者の墓の上。
審神者の埋葬の後、政府は新しい審神者を、この本丸に迎え入れる話を持ち出した。しかし、刀剣がそれを許さなかった。
主は、唯一の主であったと。
何年もの月日が経っていた。審神者にいつも玉鋼が足りない、玉鋼が足りないと言われていた刀剣は、交代で資材集めの為に出陣を繰り返した。玉鋼が手に入ると、審神者の墓に報告をした。
遠征もこなした。遠征は、審神者がよく忘れていた任務ではあったが、資材を集める為。今となっては意味の無いことでも、審神者の為には、どうしても何かしなければいけないと。
内番も、皆で交代で回した。畑仕事中に土弄りを始める短刀たちも、あの日から真面目に仕事に取り組むようになっていた。
全ての仕事、いつもの何気無い会話。
全て、報告した。
「主、馬糞投げられるの嫌がってましたよね!今なら、投げてもいいですか?」
「鯰尾」
鶴丸が慌てて鯰尾を止める。
「じゃ、じゃあ主、今日の遠征の報告をさせて下さい!今日、3回目の報告かもしれませんけど!」
鯰尾は懐から玉鋼を出して、主の墓石に添えた。
墓石には、既にたくさんの玉鋼が置いてあって。
「またたくさん資材持って帰りました、これなら、また資材不足で主が泣くことはありませんよね?」
満面の笑顔を作って、主に報告をする鯰尾。そんな姿を、鶴丸は見ていられなくなった。
鶴丸の「驚き」も、回数や質が落ちていた。驚きにキレがなくて、素直に驚くことができない。
それは鶴丸だけの問題ではなく、他の刀剣にも関係がある。
皆、声に出さないだけだ。本当は寂しかった。帰って来てほしい。
でもそんなこと声に出したら、泣いてしまったら、皆泣いてしまうだろう。悲しんでしまうだろう。
きっと、主もそんなことは望んでいない。
だから、せめて笑っていよう。
刀剣たちは、今日も精いっぱいの笑顔を作る。
己の心を偽って。
********
【冥界】
「いーやー、刀剣の公式絵本当に最高だったなぁ、
推しが来たときは本当に気絶し掛けたよ、あ、もう死んでたわ、だははは」
「それな」
冥界では、審神者たちの会議が開かれている。一卓のテーブルを囲う審神者たちは、仲睦まじく、己の刀剣たちの話をしていた。
「やっぱり三条が最後だったね。死んだわ」
「本当に死んだよね」
「虎徹クラスタさんたちまだ来ないね、死ねなかったのか」
「本丸の皆、元気かなぁ、生きてた頃はよく玉鋼が足りなくなってたんですよ」
玉鋼が足りなくなっていた。
そう発言した審神者は、周りの景色を見渡した。溜め息をつき、ここにはたくさんの審神者仲間がいても、本丸の皆が居ないのだと、急に寂しくなった。
「死んでから、本丸に戻る方法って無いんですかね?」
「んー、転生するしか……?」
「えっ、そんな方法が。ちょっと閻魔さんに相談してきます」
「私も」
「そんな簡単に交渉できるもんなんです!?」
一斉に審神者が立ち上がった。
もじもじと、立ち上がらない者の姿もあった。
後から来た者ということ、コンプレックスの大きな図体を持つこと、周りが女性だらけということ。
様々な理由があるのだろう。
「……君も来る?」
「……行キタイ」
審神者と歴史修正主義者が手を繋いだ瞬間だった。
*******
また何年もの月日が経って、審神者の墓石を囲む玉鋼の数は数え切れないものになっていた。しかし、墓石は日々磨かれ、石が輝きを失うことはなかった。
相変わらず政府がしつこく「新しい審神者」の話を持ち掛けたが、全て断った。
出陣は危険を伴う。資材を手に入れるための戦いも、運悪く痛手を負う結果を招くこともあった。
審神者が居なくては、刀剣は傷を癒すことができない。
刀は傷付き、手入れされることがない。
心配してか、利用する為か。
政府は、
「新しい審神者に治して貰いましょう」
そんな話をするのだ。しかし、本丸の中に審神者も、政府も入れることはしなかった。
ある日、こんのすけが、軽い口調で
「審神者様をお迎えしましょう」
夕食を共にする刀剣たちは、一斉にこんのすけを睨み始める。
「こんのすけ、それは俺たち刀が皆で話し合った話だ、お前も知ってるはずだろう?
俺たちは、新たな審神者を迎えるつもりは無い」
神気がこんのすけに重くのし掛かった。
「ぐぬぬっ、痛い痛い、止めて、止めてくだされ!
貴殿方がよぉーくご存知の審神者様ですゾ!」
その言葉に、刀剣たちは神気を発するのを止めた。
「それってどういう……」
「審神者様、お帰りなさいませ〜!」
「よっ」
物陰から、少女が顔を出した。姿は違えど、刀剣たちには直ぐに彼女だと気付くことができた。
「あ、るじ……?」
刀剣たちは、それまで見せまいとしていた涙を流す。刀たちの表情が少しずつ明るくなっていく。
「政府に「若いと審神者になるの厳しい〜」って言われたんだけど、皆に早く会いたくて。
前より三つくらい若いんだけれど、無理行って来ちゃった。
また明日から忙しくなるよ、よろしく〜。
あ、加州手カサカサだね、
審神者がご飯食べ終わったらクリーム塗ってあげるよ」
審神者は椅子に腰掛けて、まるで何もなかったかのように、笑みを浮かべていた。
その笑みは、今まで紙越しにしか見ることのできなかった、彼女の本当の笑み。
「あっ、主ぃ、俺クリームなんて良いよぉ、主が帰って来てくれるならさ。
ねぇ、もう何処にも行かないで;;」
涙で前が見えなくなった加州は、隣に腰掛ける安定の裾で涙と鼻水を拭く。
「き、汚い!止めろよ馬鹿オラァ?!;;」
「やーめーなーさーい!」
「主様ァァ、狐は、狐は主様が死んでしまったものかと;;」
「はい、死んでましたよ」
「審神者ぁ、審神者よ、鼻血は、鼻血は大丈夫なのか!?;;」
「いつの話を。そう簡単に鼻血は出しません、また死んじゃいますからね」
「主が留守の間、政府は我らの新たな絵を絵師殿に描かせたのだ」
「えっあっ、あっ、し、死ぬ」
「主、ダメーーーー;;!」
それは、いつもの本丸の風景。
どこかにある、本丸のお話。
「「「お帰りなさい、主様!」」」
これからも、
皆様が刀剣たちとの幸せな本丸ライフを送ることができますように。
f i n.